もう「やる気のない社員」を問題にするのはやめませんか。原因は「生き生きと働く気にならない」組織の側にある

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米国で数年前にネット上で流行ったという「静かな退職」という言葉をご存知でしょうか。「最低限の仕事しかせず、熱意を失った働き方」を意味するこの言葉ですが、こうした働き方をしている人が増えているという日本の職場に「暗い影」を落としているようです。健康社会学者の河合薫さんです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、今まで語られてきた「仕事しない社員」を問題視するのではなく、働く気を失わせる企業・組織の側を問題にすべきとして、各種データの数字を示しながら日本の「働かせ方」について問題提起しています。

「静かな退職」を生む職場

静かな退職、という言葉を知ってますか?

これは22年に米国で拡散された“Quiet Quitting“の日本語訳で、「最低限の仕事しかせず、熱意を失った働き方」という意味あいで使われています。

いわゆる「働かないおじさん」の、年齢関係なし版といったところでしょうか。

「働きがいのある会社研究所」が全国の男女約8300人を対象に調査したところ、静かな退職状態の社員は2.8%で、前回調査(24年1月)より0.4ポイント増えていたそうです。

年代別では、40~44歳が最も多く(5.6%)、25~29歳と35~39歳(各々4.4%)、45~49歳(4.3%)と続き、前回との比較では40~44歳が2.6ポイント、50~54歳も2.1ポイント上昇。

また「静かな退職の実践者」に、静かな退職のような働き方をすることで職場内にどのような影響があると思うかを聞いたところ、「職場への影響はない」が41.4%と最も多く、「仕事量の偏りによる不満が募る」(19.9%)や「連帯感が低下する」(11.6%)を大きく上回りました。

「静かな退職状態の社員=2.8%」という数字をどうみるかは意見が分かれるでしょうが、この調査の最大の“ウリ“は、上司に「静かな退職者の職場への影響」を聞いた点です。

実践者の4割が「職場への影響はない」としたのに対し、上司側は静かな退職状態の社員がいると「周りの社員の不満が募る」「チームの連帯感が低下する」など“腐ったリンゴ“になることを懸念していたのです。

おっしゃるとおり、チームがチームとして機能するには、すべてのメンバーが生き生きと働いていることが絶対条件ですから、「生き生きと働いてない」静かな退職状態は周りにいい影響を与えることはありません。

「働かないおじさん」という言葉も、「自分より高い給料もらってるのに自分より働いていないように見える年長者」への不満から生まれた言葉ですし、かつて「フリーライダー」「ただのり社員」といった辛辣な言葉が流行ったのも、周りの不満によるものです。

つまり、言葉変われど昔から「最低限の仕事しかせず、熱意を失った働き方」をする社員は存在しました。それは同時に“腐ったリンゴ“を生む原因が組織にあることを意味している。「働き方の問題」ではなく、「働かせ方の問題」なのです。

日本企業の人への投資額の低さは広く知られている通りで、国内総生産(GDP)比で米国が2.1%なのに対して日本はたったの0.1%です

「人への投資」だの「人的資本経営」だのという、耳触りのいい言葉は飛び交っていますが、社内研修や社外セミナーなどのオフJT(Off-the-Job Training)費用を支出した企業の割合は49.2%と低空飛行が続いています。

そろそろ「やる気のない社員」を問題にするのをやめ、「やる気のある社員を生む職場」問題にもっと言及してほしいです。

ちなみに、米国でバズったQuiet Quittingは、「ハッスルカルチャー(仕事を全力で頑張る文化)」からの脱却を意味し、「もう、体や心を仕事のためだけに酷使するのはやめよう。だって、仕事だけが人生じゃないし、人の価値って仕事の成果で決まるもんじゃないしね」というメッセージです。

みなさんのご意見や体験など、お聞かせください。

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