トランプが「実質的な対パキスタン抑止力」を持たない裏事情
国もそうですが、そのリーダーであるゼレンスキー大統領とネタニエフ首相は、今、アメリカ合衆国、そしてトランプ大統領の後ろ盾がない、または保証されていない状況に陥ったらすぐに、周辺で手ぐすねを引いている捕食者(ロシアとアラブ諸国など)に食われてしまう恐れがあります。
実は同じことは“捕食者”と私が例えたロシア、そしてアラブ諸国にとっても言えるのかもしれません。アメリカ合衆国の、トランプ大統領の何らかの“支持と支援”が無ければ、困ったことになる可能性があります。
例外が存在するとしたら今、非常にfragileな停戦合意と停戦状況が、何とか国と人口が密集する地域における核戦争を破滅一歩手前で踏みとどまるインドとパキスタンくらいでしょう。
先週末にアメリカ政府の仲介で(かつてパウエル国務長官が行ったように)インドとパキスタンが相互に対する攻撃を停止することに合意しましたが、この停戦合意の落ち度は、アメリカによる後ろ盾や支援を全く頼りにしないものであること、安全の保障をアメリカが行うものではないことであり、アメリカ政府の意図がいかなるものであったとしても、戦争はインドとパキスタンという当事国の一存でいかようにもなり、それをアメリカは今、止める力も時間も、糸口も存在しないことだと考えます。
実際に停戦合意・一時的な戦闘停止が合意された後も、カシミール地方における停戦ラインを挟んで両国の攻撃が継続しているだけでなく、パキスタンがインドによる合意違反を指摘して、300~400機の無人ドローンによってインド国内の軍事施設約40か所を攻撃し、それなりの成果が出ています。
その背後には中国による対パキスタン軍事支援があり、中国製のJ10C戦闘機やPL15長距離空対空ミサイル、VT4戦車やMBT2000戦車などの実戦投入により、これまでインド優位とされてきた軍事力の差を一気に埋め、今回も戦果を収めているようです。
インドも決して黙ってはおらず、ついにモディ首相が核戦力の統制チームを即時対応可能なOn Alert状態に置くことを決め、ここにきて、インドとパキスタンという隣接する核保有国が一触即発の緊張状況に置かれています。
しかし、ここにアメリカの影響力、言い換えると抑止力は働いていないと思われ、有事の際にはアメリカが介入することはできないのが現状です。
今回、中国製のJ10C戦闘機はPL15長距離空対空ミサイルを用いて、インド空軍が実戦投入するフランス製のラファール戦闘機を撃墜していますし、トルコ製の無人ドローンはインドがロシアと共同開発した超高速弾道ミサイルであるブラモスの保管庫や、ロシア製のS400ミサイルを破壊したと言われ、パキスタンの背後には様々な国が関わり、この地域での緊張を高めることに一役買っています。
そしてあまり報じられませんが、アメリカ政府がウクライナに供与している15ミリ榴弾砲はパキスタン軍から提供されており、アメリカ国内での不足を補っているという観点から、今、アメリカ政府も、軍事産業の収益を維持しなくてはならない手前、パキスタンに対して強く出ることができない状況にあるため、実質的な対パキスタン抑止力もありません。
インドには、ウクライナ侵攻後の欧米による経済制裁逃れの道を作ったことも作用して、しっかりとロシアが付いており、ロシアがウクライナ戦線で投入しない兵器弾薬がインドに提供されているという情報もあるため、もしかしたらロシア・ウクライナ戦線よりもより危なっかしい安全保障状況が存在すると言ってもいいかもしれません。
印パ間の緊張の高まりについては、他の紛争に比べて、中心格の大国の不在ゆえに大きな懸念を抱いていますが、現時点では両国の我慢比べに託すしかないと言えるほど、効果的な解決策は見当たりません。
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