ウクライナ戦争の前線にやってくることはないアメリカ軍
“アメリカによる安全保障の確約の不在”は、紛争の解決をより難しいものにしています。
例えば、ロシアとウクライナの戦争については、これまでアメリカ政府が突出したレベルでウクライナに軍事支援を行うものの、あくまでも自衛的な目的に限るという但し書きが付き、アメリカの供与した武器弾薬がロシアの領土を襲うことが無いようにという大きな制約が国内からも課せられていることもあって、何らウクライナの安全保障と自決権の保証には貢献していないと見ています。
バイデン政権は徹底したプーチン大統領非難を行いましたが、トランプ大統領は手のひらを返したかのようにプーチン大統領を礼賛する姿勢を取りつつも、あくまでも口先の介入に留まり、一方的に停戦のための協議の実現を求めるだけで、プーチン大統領が動かざるを得ない事態を作り出せていないことが、戦争をより長引かせ、ロシアによる対ウクライナ侵攻をより深刻なものにしていると思われます。
実際に欧米諸国の支援を得ないまま行われたロシア領クルスク州への奇襲越境攻撃は、プーチン大統領に戦争継続と、ウクライナを壊滅させるための口実を与え、その攻撃の黒幕として欧米諸国が存在するという格好の言い訳をさせ、ロシア国内におけるプーチン支配を強めることに貢献してしまいました。
その後、実際にクルスク州奪還を旗印に戦いが激しさを待ち、そのmother land防衛と奪還のための戦いの裏で、ウクライナ東南部4州の完全な支配を目指す侵攻が強化され、結果的にロシアの軍事的優位がより明確なものになるという皮肉を生み出しました。
欧州各国のリーダーは、アメリカに広域欧州の覇権を奪われてたまるかと言わんばかりに景気のいい話をゼレンスキー大統領に提供し、時にはキーウに集合して、stand with Ukraineを演出してみるものの、実際にロシアと戦うための支援は届いておらず、何ら役に立っていません。
効果が期待されていることと言えば、アメリカの重い腰を挙げさせることと、トランプ大統領のあからさまなプーチン大統領への傾倒に釘をさすことぐらいでしょうが、口だけの介入はトランプ大統領に何らプレッシャーを与えていません。
そこで致し方なくアメリカが求める地下資源の権益を巡るディールを受け入れて、何とかアメリカ政府による軍事支援を繋ぎとめようとしていますが、アメリカ軍が前線にやってくることはなく、また有事の際にウクライナのためにアメリカがロシアを攻撃することは考えづらいという状況は、プーチン大統領に思い切った対ウクライナ攻勢を継続・強化させるチャンスを作り出しているように見えます。
ウクライナと、存在感がほぼない欧州各国の首脳は、一方的にロシアに対して12日から30日間の無条件での停戦を呼び掛け、プーチン大統領に受け入れるように求めたものの、戦況から見てプーチン大統領にそれを受け入れるインセンティブは存在しないばかりか、国民性として誰かに言われて「はいそうですか」ということを忌み嫌うロシアを逆に刺激することになりました。
その返しとして、突如、プーチン大統領が一方的に「15日にイスタンブールにおいて、ロシアとウクライナの直接協議を行う」と発表し、話し合いに応じる姿勢を明確にしつつ、しっかりと条件は明確に突きつけるという、ロシア流(旧ソ連流)交渉術を駆使して、ウクライナにプレッシャーをかけています。
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