ウクライナへの報復の必要性をトランプに伝えたプーチン
これでロシア国内において対ウクライナ核兵器使用を含むいろいろなオプションが再考され、超強硬派の意見が強まって、プーチン大統領も報復攻撃を行わないわけにはいかない事態が生まれてきます。
もし報復しなければ国内での政治的な基盤が揺るぐ可能性がありますが、どのような策を講じるにせよ、“対話のチャンスを無にしたのはロシアではなくウクライナ”という構図を作り出す必要があり、今週行われたトランプ大統領との首脳電話会談も、プーチン大統領としては「一応、あなたには報復の必要性を事前に伝えましたよ」という状況をつくったものと考えられます。
先のウクライナによる攻撃がまずいのは、クルスク州への攻撃時と同じく、アメリカ政府に事前通告していないことで、「自分の知らないところで自ら墓穴を掘るなんて」とトランプ大統領とその周辺は考えているようで、「アメリカが今、何とか停戦のためのお膳立てを助けようとしている時に何をしているのだ」という怒りにも似た感情が、もしかしたら、仲介プロセスからのアメリカの離脱を早め、それがプーチン大統領にさらなるフリーハンドを与えることに繋がるかもしれません(これがアメリカからウクライナに相談されることは決してありません)。
ちなみに、トランプ政権による仲介プロセスについては、賛否両論あるものの、個人的には十分に役割を果たしたと考えています。
まず、ロシアとウクライナが直接協議を再開するきっかけを作り出したことは、現状では協議そのものはうまく行っていませんが、人質・捕虜の交換など、ポジティブな方向に進む材料を用意する場を提供することに繋がったと言えます。
さらには、ウクライナには到底受け入れられる内容ではないものの、ロシアの口から直接、ロシアの条件を聞くことに繋げたのは、交渉を始めるにあたっての第1段階をスタートすることになるため、それを間接的にでも支援できたのは、アメリカの半ば強引な介入なしにはできなかったものと思います。
ただロシアとウクライナの直接協議をスタートさせたにもかかわらず、その場(イスタンブールでの協議の場)に同席することを(ロシアに)拒否されたことを受けて、そろそろアメリカとしては一旦手を退いてもよいステージに達したのではないかと考えます。
そのために必要なのは、いかにトランプ大統領が“成果”をアピールできる【撤退のためのsaving faceアイテム】をロシアとアメリカが用意するかでしょうが、それをトランプ大統領とその周辺も、ロシア政府も考えているはずですので、その日はさほど遠くないように思います。
もちろん、何としてもアメリカを引き留めておきたいゼレンスキー大統領としては、いろいろと抵抗し、ウクライナはアメリカの支援があれば負けません、というアピールを続けることになるでしょうが、もろもろの米・ウクライナ間のディールも、合意が以前表明されたものの、実質的には実現のための細部は決まっていないため、トランプ大統領としては退くなら今で、その後はしばらく情勢の進捗を横目で見つつ、ロシア・ウクライナ間の終わらない、または終わることができない戦争の行方を、しばらくの間、見つめるくらいの距離を保っておくとよいかと考えます。
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