「自分のため」では残らない。すっかり下火の「ライフハック」が“ブームから文化”にならなかった理由

 

■ライフハックの「歴史」

2025年の今、かつての「ライフハック」的な情報を探そうとしても、そうとうに難しいと思います。おそらくこの辺の話題が好きな人でも、若い人ならGTDというキーワードすら知らない、ということは十分にありえます。

たとえばそれは哲学が好きなのにソクラテスを知らないとか、数学が好きなのにゲーデルを知らないとか、Appleが好きなのにジョブズを知らないとか、何かそういういびつさを私は感じてしまいます。良い悪いではなく、何かが足りていない、という感覚。

もともとインターネットには、「歴史」を壊すようなところがあります。細かく議論するのは避けますが、インターネットよりも前の情報がないことが認識されにくい、最新のものばかりが注目される、「時間」の重みが機能していない、サービスの終了と共にデータがすべて消えてしまう、といった要素が関係しています。

ライフハックに関してもその「歴史」は、見えにくくなっています。特にライフハックは、その舞台がインターネットであったので、余計にその傾向は強いでしょう。

実際、SNSを見ていると、「いや、その問題はずいぶん昔にいろいろなブログで検討されているよ」と言いたくなることが多々あります。他にも、同じツールを使っている人が、似たような問題で悩んでいて、それが別々に解決されているのだけども、辿っている道は同じ、といった状況も目にします。

もし情報が一つの場所に集まっていて、それを多くの人が参照していたら、そういう「もったいない」状況は避けられるのに、ともどかしい思いを抱えてしまうのです。

■ライフハックのプラットフォーム

各種の掲示板サービスやDiscordなどのグループツールに参加することで、情報共有の問題は一定程度解決できるでしょう。でも、なんとなく物足りない感じはあります。

料理のレシピであれば、ユーザーが投稿するサービスはいっぱいありますし、企業が整備するレシピサイトもごまんと見つかります。プログラミングでも状況は同じです。

それと同じような環境が、もしライフハックにもあったなら。

ライフハック・プラットフォームようなWebサイトがあり、そこに自由にハックを投稿でき、タグやらカテゴリやらで検索できる。そういう場所があったなら。

かつてのブログブームとは違った、つまり個人のパワーゲームを展開するのとは違った知見の共有が活性化していくかもしれません。

デジタルノートの使い方とか時間マネジメントの考え方とか手帳のアレンジの方法とかルーズリーフの工夫とか、きっとおもしろいコンテンツが盛りだくさんの楽しいWebサイトになるでしょう。

そのようにして共通の場ができれば、そこからいろいろな話題が生まれてくるかもしれません。使われる言葉(用語)も自然淘汰的に整備されていくでしょう。そのようなコンテキストの土台があった上で生まれる人と人の会話や交流は実りの多いものになるはずです。

もちろん、そんな話は夢物語にすぎません。そうしたWebサイトを誰が作り、運営するのか、という大きな問題が残っています。技術や資金の問題ではありません。意欲の問題です。ライフハックに価値を感じている人であればあるほど、個人主義なのだとしたら、そうしたサイトを運営する意欲はかなり低いでしょう。

結局、そこに問題は戻ってくるわけです。

■さいごに

組織内で成果を挙げる「仕事」や、公共に情報を著す「出版」という活動では、個人主義に閉じていることはできません。少なくとも、どこか一部は開いておく必要があるでしょう。

しかし、“自分のことを自分で片づける”というマインドセットの「ライフハック」は、究極的に閉じていることができますし、それが良さの一つでもあるわけです。

だとしたら、個人主義の姿勢を崩さずに、しかしその上でできることを考えていくしかないのでしょう。『ライフハックの道具箱』というプロジェクトはそうした活動の一つだと個人的には考えています。

この記事の著者・倉下忠憲さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Shutterstock.com

倉下忠憲この著者の記事一覧

1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 』

【著者】 倉下忠憲 【月額】 ¥733/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日 発行予定

print
いま読まれてます

  • 「自分のため」では残らない。すっかり下火の「ライフハック」が“ブームから文化”にならなかった理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け