具体的な論点について民意を問うことから逃げた参院選
いずれにしても、今回の選挙では、野党はより野党ビジネスの「うま味」に酔いしれ、与党は「統治という無理ゲー」を抱えてより追い詰められました。そして、財政規律については「ユルユル」となり、「移民による労働力補に完はふわっとした嫌悪が固定化」しました。そして、直視すべき格差は隠されて、代わりに敵を作ることでイデオロギーの虚しい仮想コミュニティを作るということが流行したのです。
その先にあるのは、方向性のない、そして闇の深まりを抱えた「薄暗い未来」ということになります。
更に言えば、様々な具体的な論点について、民意を問うことから逃げた選挙でもありました。例えばコメを巡る政策がそうです。小泉農水相は消費者米価安定に奔走しましたが、彼の独自の持ち味である「米作の大規模化による生産者と消費者の双方のウィンウィンになる落とし所」という主張は、零細農家の反発を恐れて封印させられました。
そのくせ、地方では小泉氏の消費者米価安定策が「生産者米価下落策」だというデマとなって、自民党の逆風になりました。これにより、コメに関する政策は更に迷走することになると思います。この問題については、その一方で、選挙戦の中盤に議論されたほどには「自民党の票を食ってはいない」という見方もあります。もしかしたら、選択はできなかったけれども、問題の難しさについては、ある程度は議論の下地はできたのかもしれません。
争点化しなかったということでは、原発問題もそうです。但し、こちらについては、ここまで電気代が上がる中では再稼働や新設でエネルギーの安定供給をすることは必要だという、静かな合意は進んでいるのかもしれません。
そんな中で、今回の選挙で一つだけ良かった点を挙げるのであれば、日本という国がここまで貧しくなったことへの「悔しさ」というのが、かなり明確に票として出てきたということです。もう戻らないのに、30年近く「経済の再生」などというお経を唱えたり、財政もGDPもどんどん細くなるのに「骨太のナントカ」などという言葉遊びで長い時間を空費してきたことへの「ノー」というのは、やはり評価しなくてはなりません。
またごく一部ですが、明確な改革志向を持った票というのも形を取るようになってきました。そう考えると、未来へ向けての灯火ということでは、全くの闇というわけでもないように思います。そうなのですが、全体としては「統治の無理ゲー+リスク逃避という野党ビジネス」「ズルズル・ユルユルの財政規律」「労働力としての移民への漠然としたノー」という3つのダメ判断が象徴した選挙でした。
今回の選挙でハッキリとしてきた「薄暗い未来」をどうするのか、具体的な作戦、つまり戦略戦術について、改めて読者の皆さまと議論して参りたく思います。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2025年7月22日号「参院選が示した薄暗い未来」の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「エプスタイン・ファイル問題、MAGA派に蛙化はあるのか?
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