「領土割譲」はいくら何でも
理由はどうあれ、他国への侵略には違いなく、だからと言ってプーチンとしては、ロシア系住民の命の保証と自治権の確立なしに引き上げる訳にはいかない。他方、キーウとしては領土の割譲など認められるはずもないので、これには解決方法がない。
トランプ政権の立場は、ヘグセス国防長官が今年2月にブリュッセルの会議で述べたように、「我々は、皆さんと同様、独立し繁栄したウクライナを望んでいる。しかし、ウクライナの2014年以前の国境を回復しようとするのは非現実的な目標であることを認識することから出発しなければならない。このような幻想的な目標を追うことは、戦争を長引かせ、より多くの犠牲を出すだけである」というもの(本誌No.1298=25-02-17)で、恐らく今回トランプもそのように言ったのだろうが、それはキーウが受け入れるはずがないから「進展するかどうかはウクライナ次第」ということになる。ただ、クリミアについては諦めるということはあるかもしれない。
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NATO加盟については、ヘグセスは同じ会議で「ウクライナのNATO加盟は現実的でない」「ウクライナに平和維持部隊が配備される場合も非NATOの任務としてでなくてはならない」「米軍部隊がウクライナに配備されることはない」と述べている。
ウクライナはもちろんNATO加盟を望んでいて、それを決めるのは自国の主権の問題だと主張しているが、領土割譲に比べればこちらの方がまだ妥協可能かもしれない。
すべてが複雑骨折化してしまった今では、ミンスク合意に戻ることは不可能で、トランプ流の「バナナの叩き売り」レベルの単純なディールでは解きほぐすことはできない。
トランプは前々から「オバマがノーベル平和賞を貰えてなぜ俺が貰えないんだ」と喚いていているが、「ウクライナ和平」でそれを達成するのは到底無理であることがはっきりしたのが今回のアラスカ会談だった。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年8月18号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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