「外国人排斥」というムードと地方名望家の関係
1つは、その集票マシンです。地方名望家なる存在があり、その存在が日本の保守政治を支えているとして、彼らは保守党に従順というわけでもありません。例えばですが、細川政権、鳩山政権などの政権交代があった際には、地方における左のバラマキに反応して票が動きました。
また、地方保守票と言っても中選挙区時代の名残りで、一枚岩ではないのです。例えば清和会系が弱く、宏池会系が強いとか、各派が争っているなどの県もあります。これに対して、中央政界としては、以前はバラマキで対応していたわけです。公共工事を大きな「餌」として集票を行っていたのです。ですが、現在は財源難から政治的なバラマキは難しい時代です。
更に、人口減が直撃する中では意味のある、つまりリターンのある公共投資は限られてきます。そんな中で、自陣営に有利になるように、地方票をまとめるには、どうしても饗応が必要になってきます。と言いますか、昔から饗応はやってきたわけで、最低限これは今でも止められないというわけです。ところが、岸田政権の裏金摘発のドラマの結果、こうした饗応に使う資金も源流が絶たれてしまいました。
もう観劇バス旅行も、桜を見る会も資金的にできない時代、またネットなどの監視の厳しい中では、非常に難しくなっています。そんな中で、依然として地方名望家がまとめてくる地方票を確保するには、イデオロギーしかなくなっている、そんな中で、高市というブランドはある種の力を持ったのだと思われます。
2つ目は、では昨今急速に話題になっている「外国人排斥」というムードと地方名望家の関係ですが、これは、実は非常に複雑です。一見すると、地方名望家はイデオロギー的な保守であり、それこそ「外国人排斥」を先頭に立って主張しそうに見えます。ですが、現実は違うのです。
多くの地方の中小企業のうち、製造業に関しては、勿論低付加価値のもので地場産業として残っているものもあります。ですが、中付加価値のものは、年商100億前後の商売でも、90年代以来どんどん国外に製造拠点を出しているのです。つまり、地方名望家と言っても最低限の国際化はしています。
一方で、内需対応の産業ですと、観光旅行業などの人での必要な部分は、それこそ現在はその多くを外国人労働力に依存しています。また観光旅行業の場合は、内需のようで実態は訪日外国人、つまり事実上の外需依存だったりします。製造業も、農業もそして建設も、外国人労働力がなければ回りません。
だからこそ、安倍政権は猛烈な勢いで外国人労働者を入れたわけです。地方名望家というのは、実は暗黙の存在として、この動きに期待しており、安倍政権は見事にこれに応えたということが指摘できます。
国際問題ということでは、日中関係もそう簡単ではありません。地方名望家で、清和会系というグループは、一見すると中国に対して厳しそうですが、実情としては違います。実際は、工場を中国に持っていたり、部品や素材産業の場合は中国企業が大口の納入先だったりします。それこそ観光旅行業においては、今でも中国人旅行者の需要は業績に直結します。
古い話ですが、改革派を標榜して都市の票を掘り起こした小泉純一郎政権が、アッケラカンと総理の靖国参拝を行って、事実上は中国との首脳外交を拒んでいたわけです。その際には、日中関係は「政冷経熱」だなどと言われていました。これに対して、直後に登場した第一次の安倍晋三政権は、日中の首脳外交を再開しましたが、これも中道シフトと言うよりも、支持基盤であった地方名望家の利害を代表しての行動であったと考えられます。
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