米政権内の人間との対話で見えてきた「案件間の優先順位」
ロシアとしては、中東における緊張を高めることで、戦況が停滞しているロシア・ウクライナ案件からアメリカの注意力とエネルギーを逸らせ、ウクライナに対して決定打をあえて打たずに戦争をさらに長期化させ、ウクライナの内側からの崩壊を加速させるべく、ハード面ではインフラ施設への徹底的な破壊攻撃と、touch and goのドローンによる攻撃とNATO諸国への領空侵犯、キーウと地方都市の分裂の拡大と反ゼレンスキー勢力のウクライナ国内における結集といった工作を進める算段だと思われます。
最新の分析では(とはいえ、以前から分かり切っていることですが)、軍事的にはロシアはウクライナを破壊するだけの十分な優位性と能力を持っていますが、そのためには核兵器の使用が必要とされ、仮に放射能汚染を引き起こした場合には、ウクライナを打倒し、ロシアの影響圏に組み入れても居住することはできないという現実と、いかなる形でも核兵器の使用は、第2次世界大戦後(広島と長崎にアメリカが原爆を投下して以降)、非常にデリケートなバランスで保たれてきた体制を根本から破壊するという“パンドラの箱”を開き、核兵器による対峙を世界各地に引き起こすだけでなく、それはNATOとロシアが核兵器による相互破壊に踏み出しかねない状況を作り出し、そこに中国と言う核戦力を一気に拡大するプレイヤーが加わることで、地球と人類の滅亡を意味する第3次世界大戦が勃発することになります。
ゆえに、ロシアにとってはその“最終的な手段”は慎重にキープしながら、対ウクライナ特別作戦においては“決して負けないこと”をゴールに置き、若干、我慢比べの域に達しているようにも見えますが、じわりじわりとウクライナを締め付け、ウクライナの背後にいる国々を疲弊させ、ウクライナを内部から崩壊させるという戦略を実施するという選択をしているものと考えます。
そのような戦略の一端を、恐らくトランプ大統領はプーチン大統領との直接会談において察知し、pro-ロシアなのか、pro-ウクライナなのか分からない言動を繰り返してプーチン大統領にプレッシャーをかけつつ、アメリカが直接的にロシアと対峙するシナリオを避けるための策をいろいろと講じているようです。
トランプ大統領は、来年秋の中間選挙での共和党候補の完全勝利を目標に、アピールポイントとして誰も解決し得なかったロシア・ウクライナ戦争およびガザ終結というウルトラCを成し遂げようと躍起になっていますが、政権のいろいろな人たちに聞いてきたことを総合的にまとめてみると、見えてくるのは、案件間の優先順位です。
最近、停戦合意を仲介したタイとカンボジアの案件は、アメリカの経済力とアジアにおける対中バリアの提供という“力”によって両国を押さえつけた形になっているため、比較的にEasyな案件だと思われます。
アゼルバイジャンとアルメニア間のいざこざの仲介も、「なぜアメリカがコーカサスの案件の仲介に乗り出すのか」という様々な憶測を呼びますが、これは表向きにはロシアに対するプレッシャーの創出(ロシアは自国の影響圏にアメリカや欧州のプレゼンスが高まることを嫌う)と対ロ交渉カードの獲得という見方ができますが、ナゴルノカラバフ紛争時に、アルメニアと軍事同盟を結んでいたはずのロシアが助けてくれず、トルコの全面的なサポートを得てアルメニアを圧倒したアゼルバイジャンにナゴルノカラバフを“取り戻された”苦い経験から、アルメニアはロシアから距離を置き、逆にアメリカを招き入れるという芸当を行ったことで、今回の仲介の成功に結び付く基盤が作られたと見ることができます。
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