戦略上は「台湾の存亡に興味なし」というアメリカの本音
これらを仮にDone dealとして成功と捉えた場合、アメリカにとって残る紛争はロシア・ウクライナ戦争とガザを巡る攻防ですが、どちらも一筋縄ではいかぬことが分かっているため、ここで優先順位が付けられる必要が出てくることになります。
政権内の人たちの話を総合すると、最優先は「中東地域をアメリカの勢力圏として確保し、伸び続ける中国とロシアの影響を排除すべく、イスラエルを対アラブのバランサーとして用い、可能な限りサウジアラビア王国をはじめとする比較的に親米の国々を巻き込んでおくこと」であり、その実現と確保に比すると、ロシア・ウクライナ戦争は“待つことができる”ということだそうです。
その背後にあるのは、ロシアへの脅威ではなく、世界各地で強まる中国の影響力を削ぎ、かつ紛争という媒体を通じて中国の影響圏が繋がり、面として拡大していく事態を何としても避けたい・阻止したいという戦略が存在します。
中国絡みでは、貿易戦争や台湾有事への懸念、アジア太平洋地域における軍事バランスなどがあるかと思いますが、実は台湾の存亡については、TSMCという半導体企業と技術、ノウハウという経済・技術的な覇権の確保(または攻防)という狙いを除けば、あまり気にならないのが、アメリカの戦略上の本音と思われます。
中国の影響力の伸長を抑え込むためには、日本や韓国の協力は不可欠で、今回のトランプ大統領のアジア歴訪でもその戦略は明確に見えましたが、中国と真正面から対峙することで、ネガティブな安定状況を世界に作り出すという外交戦略の作成と実行に専念するには、イスラエル絡みで荒れ狂う中東情勢を収め、ロシアの野心の末、ロシアの再拡大の足掛かりとなるウクライナの運命をハッキリさせ、“解決”することが必須と考えられているようですが、ご存じの通り、アメリカはその2つの大きな戦いの泥沼に引きずり込まれそうになっています。
それはネタニエフ首相の狙いであり、ゼレンスキー大統領の狙いでもあり、そして欧州防衛にアメリカを惹きつけておきたい欧州各国の狙いでもあるのですが、今、トランプ大統領のアメリカは、確実にそれぞれの狙いによって作られた沼にどっぷりとつかり、引きずり込まれることで、だんだん身動きが取れず、一度は撤退を決めたはずの世界への再コミットメントを強いられる状況が鮮明になってきているように見えます。
トランプ大統領が行った核実験の即時再開という唐突な発言も、推測に過ぎませんが、このような状況に楔を打ち込み、独自の外交・安全保障戦略をリマインドして、一旦、対外コミットメントを小休止して、戦略を練り直すための時間稼ぎと捉えることも可能だと考えます。
イスラエルによるガザへの再攻撃も、トランプ大統領による核実験の即時再開という突拍子もない発言も「嘘であってほしい」と強く願うものではありますが、もしかしたら入念に練り込まれたシナリオが着々と淡々と実行に移されているだけなのだとしたら、私たちは近々、全く想像しなかった世界を見て、その中で生きることを強いられることになるのかもしれません。
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