抵抗する作家・丸谷才一。裏声が照らした戦後文学史の一側面

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戦後日本文学を代表する作家・批評家の一人、丸谷才一は、小説家であると同時に、言論や出版文化に対して鋭い批評精神を持ち続けた人物です。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では辛口評論家として知られる佐高信さんが、丸谷才一の「裏声」に宿る批評精神と、その一貫した姿勢を辿っています。

丸谷才一の裏声

『笹まくら』(新潮文庫)や『裏声で歌へ君が代』(新潮文庫)の作者、丸谷才一は鶴岡の出身だった。

それで郷里の『荘内日報』(荘内日報社)に「声だけは聞いた丸谷才一」と書いたことがあるが、会ったことはない。

声を聞いたのは藤沢周平のお別れ会でのあいさつである。

そのシャープさをちょっと敬遠してもいた。

改めて『丸谷才一と 16人の東京ジャーナリズム大批判』(青土社)を手に取って的確だなと思った。

丸谷は「明日も生きよう」という気持ちにさせない雑誌として『週刊新潮』(新潮社)と『世界』(岩波書店)を挙げる。40年近く前の時点でだが、その理由を丸谷はこう語る。

「これは、一見全く異質な雑誌として考えられていますけれど、ものの見方を暗くして人を勇気づけないという点で、よく似ているんですね。

人生観ないし世界観が窮屈で不景気なんです。

それが人生の真実、世界の真実だという立場もあるでしょう。

でも、真実だって天丼と同じで上、中、並とある。

ぼくは、たかが雑誌を読んで、並の真実を教わって気分が暗くなるのはいやですね。

雑誌というのは、人を元気づけたり、気持ちを明るくしたりすることが、まず、第一の条件だと思うので、『週刊新潮』と『世界』はとらないだろう、という気がします」

『週刊新潮』は、裏声で君が代を歌うとはケシカランと右翼チックに批判するだろうし、『世界』はそうしたユニークな視点を持ちえないだろう。

読者を編集者がどう想定しているかという問題もある。丸谷は続ける。

『文藝春秋』という雑誌は、編集者が読者をあがめてもいなければ、軽蔑してもいないという気がするんです。

ところが大抵の雑誌は読者を軽蔑することによって成立している」

“上から目線”というヤツだろう。

丸谷は岩波文庫に厳しい。

「艶笑文学的性格の強いものはみんな除外される」として、20世紀の大事な作家、ジョイスとプルーストが入っていないと批判する。

「これだけジョイスとプルーストに関心を持たない国は、ソヴィエトと中国ですね。

社会主義国ではジョイスとプルーストは頽廃したブルジョワジーの小説なわけですよ。その文学的判断を真に受けてやっているのが、岩波文庫なんだな」

厳しすぎるきらいもあるが、当たっていないとは言えない。言論弾圧、つまり表現の自由の圧迫はエロから始まることを弁えているのかと丸谷は言いたいのかもしれない。

野坂昭如が関わった『四畳半襖の下張』裁判で、丸谷は弁護人を買って出た。

『笹まくら』は徴兵を拒否して逃げまわった男の話である。

『たった一人の反乱』(講談社文芸文庫)を含めて、丸谷は明らかに抵抗の作家だった。

それを江藤淳が嫌ったのも当然だろう。

ただ、私は思想的には丸谷に与するが、愛読したのは江藤である。

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