高市氏に期待したい義理人情の「オッサン政治」の抑え込み
高市首相が無難に外交デビューを飾った背景には、“時の利”というものもある。トランプ氏も習近平氏も国内の深刻な事情をかかえており、日本の力を必要としているのだ。
周知の通り、2026年秋に米連邦議会の中間選挙をひかえるトランプ大統領は「国内製造業」の復活を政策の中心に掲げている。その意味で、トヨタなど日本の代表的企業を米国への投資に呼び込むことは重要な政治的成果となる。今回、アメリカ大使公邸の夕食会で日本の経済界トップらと懇談した風景は、米国内へ向けて大きなアピールとなったはずだ。
一方の習近平氏も、不動産不況・失業率上昇・外資撤退の三重苦に直面している。日本企業の存在はまだまだ大きい。国家主席3期目に入って以降、習氏は権力をさらに集中させようとしたが、実際には経済失政などによって求心力が低下しているといわれる。だからこそ、外交舞台での成果が欲しいのである。
こうした背景のもと、高市外交は順調に滑り出したように見える。しかし、緊張感高まる米中の狭間にあって、いかに経済安全保障を確保するため荒波を乗り越えていくか。高市首相には大きな期待と重圧がのしかかる。
同時期に行われた米中首脳会談。注目されたのは、トランプ大統領の高関税政策に対抗して中国が打ち出した「レアアース」の輸出規制問題だった。
電気自動車、風力発電機、スマートフォン、そして防衛装備。これら先端産業を支える“見えざる資源”がレアアースだ。米国にもカリフォルニア州マウンテンパス鉱山という大鉱床があるが、問題は精製技術がなく、中国に依存していることだ。
米側が20%の追加関税を10%引き下げる譲歩案を示したため、中国側はレアアースの輸出規制を引っ込めたが、今後もことあるごとに中国はレアアースを外交上の武器として使ってくるだろう。
世界のレアアース精製の約8割を独占している中国が“制裁”の名目で日本への輸出を止めれば、日本のハイテク産業は一瞬で立ち往生する。“新冷戦”の時代にあって、経済安全保障戦略が大切であることは担当大臣をつとめたことのある高市首相が誰より深く認識しているはずだ。
南鳥島周辺の海域には、世界最高品位の「レアアース泥」が豊富に分布している。海底の泥からレアアースを分離するプロセスはまだ研究段階だが、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)と東京大学の手で、2028年前後を目標に採掘実験が予定されている。決して、はるか未来の夢物語ではない。防衛費の増額もいいが、こういうところに惜しまず予算をつけてほしいものである。
高市政権が発足して半月あまり。これまでのところ、高市氏の発言は概ね穏当、適切であり、極端な思想性は見られない。全体のバランスをはかるべき首相として、ひとまず持ち前の保守思想を封印しているのかもしれない。
だが、早くも連立相手の日本維新の会で、藤田文武共同代表の公金還流疑惑が持ち上がり、創設者の橋下徹氏がSNSで批判を展開、ただでさえ内紛の起こりやすい維新の体質を刺激している。連想で自民党の裏金問題にも再び火がつきそうな気配だ。
不安定な政治状況のなかで、少数与党の高市政権が生き延びるには「政治とカネ」の問題も避けては通れない。だが、旧安倍派に気を遣い、いわゆる“裏金議員”7人を副大臣、政務官に登用するなど、問題解決に消極的な姿勢が目立つ。党内力学を優先したと見られても仕方がないだろう。
義理人情の“オッサン政治”を抑え込み、「女の一本気」であらゆるシガラミを断ち切ってもらいたいものだが、果たして…。
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image by: X(@首相官邸)









