安倍氏の「努力」を忘れるべからず。中国を激怒させた高市早苗「台湾有事は存立危機」発言が抱える大問題“3つの本丸”

 

理念より人脈、ロジックより一貫性という中国の外交

それ以上の問題として、中国は事件の2年前の1999年にクリントン政権が、NATOとして実施したコソボ問題に関するベオグラード空爆に際して発生した、中国大使館への誤爆(??)事件への対応を重視していました。

当面は、国内世論に反米感情があった一方で、アメリカの政権が民主党のクリントンから共和党のブッシュに交代したことへの評価もしたかったのだと思います。

クリントン政権に関しては、江沢民による改革開放は支持しており、既に通商関係は拡大しつつありましたが、中国としては信用していませんでした。何よりも、ヒラリー・クリントンが国連女性会議を北京で開催した際に、人権問題を散々批判したのが気に入らないし、そこにベオグラードでの誤爆事件があったからでした。

しかしながら、当時の江沢民政権はとにかく朱鎔基首相などが主導して、経済成長を加速させたい中で、アメリカ市場は非常に重要であったわけです。そこで、新たに登場したブッシュという共和党大統領は信用できるのか、これをテストしたいという動機は非常に強かったのだと思われます。

結果的には、落とし所が見つかり、事件は解決。アメリカ国内では、比較的早期に人質となったパイロットを奪還できたので、ブッシュの評価は上がりました。恐らく江沢民政権内部でも、ブッシュの公式謝罪や遺族への弔意をゲットということで、政権のメンツは大いに保たれたのだと思います。

事件の最大の意味としては、この海南島事件の解決へ向けたネゴを通じて、ブッシュ政権と江沢民政権が非常に有効なコミュニケーション・チャネルを獲得したことでした。これによって、半年後の911同時多発テロに対する「反テロ」戦争をブッシュは、中国の妨害なく遂行できたことになります。更に、米中の通商関係は加速度的な拡大を見せて行きます。

海南島事件については、筆者自身も記憶をリフレッシュする必要があり、少々詳しく述べましたが、以降は日中関係におけるいくつかのエピソードを確認していくことにします。こちらは、少し簡単に列挙することにします。

まず小泉純一郎政権と江沢民政権ですが、小泉純一郎(総理在任2001~2006)は、確信犯的に「毎年靖国参拝を行う」ことで、中国首脳との関係は最悪でした。江沢民が胡錦濤に交代しても同じであり、とにかく長期間にわたって日中の首脳外交が停止した状態でした。

ただ、この期間は中国の経済成長が加速した時期であり、日本と中国との通商関係も急速に拡大していました。この経済的な関係には、首脳外交の中断という問題が影を落とすことはありませんでした。いわゆる「政冷経熱」の時代ということになります。

小泉純一郎と中国指導部というのは、どういうわけかお互いに歩み寄りはほとんどしていません。ですが、さすがに経済関係が抜き差しならない中で、5年以上にわたって首脳外交が全く無い、第三国で一緒になってもしないというのは、不自然極まりないわけです。

そこで小泉後継の第一次安倍政権になると、安倍晋三氏は靖国参拝を封印して、胡錦濤との首脳外交を再開しました。

この安倍氏の行動は、中国サイドも評価していて第二次政権になっても、良好な関係は続きました。中国の外交は理念より人脈、ロジックより一貫性の部分を使ってネットワークを維持する手法ですので、それが上手く効いたのだと思います。

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