「停戦に向けた譲歩」を行うことなど考えられないロシア
トランプ大統領としては、まだ公的に非難はしていませんが、イスラエルにメンツをつぶされた形になり、すでに関心がロシア・ウクライナ戦争の終結に向けられていたにもかかわらず、再度、中東案件に引き戻され、明らかにご立腹だという情報が入ってきていますが、それがどのような影響を及ぼすことになるのか心配です。
現行のロシア・ウクライナ戦争の終結に向けた合意内容は、米ロ間で水面下で進められた28項目(米国政府内でも否定的な見解あり)を、欧州の支援を得たウクライナが押し返して、ジュネーブのアメリカ政府との協議で19項目にまで絞り込んだと言われていますが、まだ領土割譲や“ウクライナのNATO非加盟”については合意できておらず、今後、首脳間での交渉に委ねられるとのことで、まだ合意には至っていません。
さらには米ロ間での“作文”を否定されたロシア政府側としては、新しい修正案の受け入れに対しては非常に否定的な姿勢を明確にしていることもあり、非常に楽観的な報道とは裏腹に、状況は全然前進していないものと思われます。
トランプ大統領が関与した他の和平合意と同じく、ロシア・ウクライナ間の停戦合意の内容も非常に表面的なもので、かつ抽象的な表現が目立ち、仮に“合意”に至ったとしても、実際のExecutionに向けた協議はこれからで、まさに総論賛成・各論反対という状況が表出し、仮にすべてがうまく進んだとしても、短く見積もって1年から2年間は要するような交渉が容易に予想できますが、早急に成果を欲するトランプ大統領としては、そんなには待つことが出来ず、合意を急ぐため、確実にロシアの思うつぼになると考えられます。
そうなるとまたアメリカ政府はロシア・ウクライナとイスラエル・ガザという2正面作戦を強いられ、外交的な資源が枯渇することも予想され、それがまた”抑止力を堅持できる圧倒的な力の不在”という恐ろしい状況を招くことになります。
その場合、すでにここ15年から20年間がそうであったように、アメリカの力の空白を中国とロシアが埋め、じわりじわりと勢力圏を拡げていくという状況がさらに顕在化することとなりますが、それを絶対に避けたいトランプ大統領としては、対応の優先順位をつけなくてはならなくなります。
その場合、果たしてアメリカは常にネタニエフ首相の友人かどうかは疑問です。
もし国内での選挙対策でユダヤ人層と福音派を繋ぎとめるために、プロ・イスラエルを続けることにするのであれば、ロシアとウクライナの戦闘はさらに長期化することが必然ですし、仮にイスラエルを見捨てるか、イスラエルと距離を置き、中東地域をデリケートな安定状態に置きつつ、本腰はロシア・ウクライナ戦争の仲介に置くのであれば、非常に困難な状況が予想できます。
ロシアとしては、一応、国内外に対して対ウクライナ戦争の戦況を有利に進めており、負けていないどころか勝利しているというプロパガンダ戦略を実施しているため、現時点での停戦には関心がなく、「停戦を望んでいるのは、ウクライナであり、アメリカ、そして欧州だろう。ロシアの提示する条件をすべて受け入れるのであれば、停戦に応じる準備がある」という非常に強い立場で交渉を行うことができるため、欧州各国がいくらバックグラウンドで叫び散らしても、ウクライナのゼレンスキー大統領がいろいろな場に出向き支援を訴えても、そしてトランプ大統領の気まぐれな発言と動きで揺さぶりをかけても、十中八九、停戦に向けた譲歩をロシアサイドが行うことはないと言えます。
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