独裁者プーチンとの「ビジネス拡大」が目的。米トランプが「和平」に乗り出した“アメリカファースト”すぎる理由

 

ウクライナで勃発した対ロ抗戦に影響を与えかねない事態

プーチン大統領は欧州の姿勢を非難していますが(そして私も読者の方たちから指摘されるように欧州の姿勢には批判的ですが)、原理原則を前面に押し出して、ウクライナを盾にロシアが作り出す不公正を正そうとする姿勢は評価できますが、どこまで本気でロシアと対峙してでもウクライナを守る気があるかという覚悟は感じられないのが実情です。

欧州国内ではすでにウクライナ離れが起きていることと、ロシア・ウクライナ戦争によって経済が停滞し、インフレ状態が継続していることへの苛立ちと怒り、そしてロシアを敵に回した際に、自国を防衛するリソースをこれ以上削るべきではないという声の拡大などが見られ、口先だけの介入に留まりがちというのも、ロシアに好き放題非難される隙を与えているものと考えます。

そのような中、ウクライナの対ロ抗戦に大きな影響を与えそうな事態がウクライナ国内で起きています。

その最たるものは、ゼレンスキー大統領の右腕で、影の大統領とまで言われ、和平協議のウクライナ側首席代表も務めたアンドリー・イェルマーク大統領府長官が汚職疑惑で解任され(辞任し)、その解任劇を巡って議会の与野党から「ゼレンスキー大統領の政治的リーダーシップに大きな疑念が生じた」として「大統領職を直ちに辞任すべき」との声が上がっていると言われている状況です。

議会側は「辞任の上、次の大統領選に出ることは止めない」としつつも、今年に入って高まるゼレンスキー大統領と政権運営に対する非難の高まりを受け、今後、どのような内政状況が生まれるかは未知数となっています。

議会からの非難が行われた際は、確かゼレンスキー大統領はパリでマクロン大統領と対ウクライナ支援および対ロ和平協議について話し合っていたはずですが、頻繁な外国出張が何ら前向きな結果をウクライナにもたらしていないことに対して、国内で不満と非難の声が高まっていると言われており、このままだとロシアという大敵からのプレッシャーを跳ね返すための後ろ盾(国内の支持と欧米からの支援など)と政治的基盤(これまでイェルマーク氏に委ねていた)を失い、四面楚歌の状況に追い込まれ、ウクライナはそのまま倒れてしまうことになるかもしれません。

和平に乗り出したトランプ大統領のゴールは、いろいろと聞くところによると、「いち早く戦争を終わらせ、ロシアとエネルギー関連でのビジネス拡大の協議を行いたい」というものらしく、あまり戦争を終わらせた後、どうするのか?に関心はない模様です。

もちろん、どのような形でも戦争が終われば、即戦後復興のプロセスが始まることになりますが、そこにはまた複雑に絡み合う利害を持った国々とステークホルダーが密集することは必然ですので、仮に戦争が終わっても、かなりの混乱が予想できます。

現時点ではロシアはまだ戦争を有利に進め、手の内をすべて明かしているわけではないことから、プーチン大統領の戦略は、アメリカからの仲介の申し出を有り難く利用し、和平協議への前向きな関心は示し続けつつ、和平合意のベースとなる“現況”を可能な限り有利な内容にするか、または一方的な内容をウクライナおよび背後にいる欧州にのませるべく、対ウクライナ攻撃を強化して、軍事的に解決してしまう選択肢(プーチン大統領の表現では“対ウクライナ外科手術”)も引き続き追及することだと見ています。

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