トランプにも一蹴されたネタニヤフの哀れな「命乞い」
そして域外ですが、中国の習近平政権は「イスラエルはこれまでに国際法を何度も蹂躙し、無視し、非人道的な行為を繰り返してきたことを自覚しなくてはならない。一刻も早くガザに対する蛮行を停止し、人道支援を邪魔しないことが必要だが、恐らくそれはネタニエフ首相の下では行われないだろう」と、これまで見たことがないくらい踏み込み、ポジションを取った発言を行っています。
アラブ社会からの反ネタニエフ首相の発言が相次ぎ、ネタニエフ首相のイスラエルとの協力は不可能と認識がアラブから示されたことを受け、トランプ政権が何らかの反応や発言をする前に、中国が非難を行ったことは非常に珍しいことであり、驚いています。
トルコのエルドアン大統領やブラジルのルラ大統領がネタニエフ首相をヒトラーに擬え、「今、イスラエルが行っているのは明らかなジェノサイド」と非難しているのは、ちょっと慣れっこになってきましたが、ついに静観を決め込んでいたはずの中国まで反イスラエル(というよりは、ネタニエフ首相批判)に加わったことで、国際社会におけるイスラエルの孤立がさらに厳しくなってきていることが分かります。
そのような中、トランプ政権はネタニエフ首相に対して、ガザ案件ではなく、イスラエルがアメリカからの要請を無視して進めるヨルダン川西岸における入植拡大の動きと、シリアに対するゴラン高原の不法占拠を今すぐ止めるように要請し、それが行われなければ、アメリカが仲介してまとめた和平案に基づくガザの再建および地域の安定化のためのISFの組織などはキャンセルする旨、突き付けたのは、非常に注目に値します。
この“アメリカ案”は、すでに国連安保理決議として承認されており、アラブ諸国もISFの派遣と“アメリカによるガザ管理”というアイデアを呑む代わりに、イスラエルの蛮行の停止と、地域における不安定要因の除去などに対して、アメリカがイスラエルにプレッシャーをかけることを条件に成り立っていますが、その実施が危ぶまれる状況が生まれてきています。
イスラエル国内でもネタニエフ首相の退陣を求める動きが拡大し、一刻も早く10月7日の対応の不手際とこれまでの汚職疑惑についての公の説明を行うように求める声が高まっていますが、当のネタニエフ首相は大統領に対して恩赦を求め、「今はテロとの戦いに、イスラエルの生存に対する闘争に集中させてほしい」と懇願する動きに出ました。
しかし、ヘルツォッグ大統領は恩赦について「ネタニエフ首相が政治生命を諦め、10月7日の出来事について公の場で説明し、謝罪を行うことが条件」と返答し、事実上、拒否する姿勢を鮮明にしました。
これについては、サポーターであるはずのトランプ大統領も「恩赦云々の件はあくまでもイスラエル国内の話であり、アメリカが介入するべき問題ではない」と突き放し、ネタニエフ首相は追い詰められている状況です。
ここで起こりうることは、【周囲からの圧力に負けて政治生命を閉じることで、訴追を免れるという自身の保身の確保】か、【来年までは総選挙を引き延ばせることを逆手に取り、より右傾化して、自らの任期中にガザ、パレスチナ全域、シリア、レバノンなどを軍事的に制圧し、ヨルダンやエジプトなどと極度の緊張状態に陥り、アラブ社会とムスリム社会を敵に回して、自らイスラエル存亡の危機を作り出す】という選択肢だと考えます。
個人的には前者であってほしいのですが、恐らくこれまでの言動を見る限り、後者に傾き、実力行使によって“勝利を収め”、ネガティブな反応を押しのけていく選択を行うのではないかと懸念しています。
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