アラビア半島を舞台にした世界戦争が起こる可能性も
そうなった場合、いつまでアメリカがイスラエルを庇うのかにもよりますが、確実にアラブ諸国とパキスタンやインドネシア、マレーシアなどの域外ムスリム諸国は挙って反イスラエルで固まり(すでに今週、パキスタンのアリ国連大使がイスラエルをジェノサイド実施国と激しく非難しています)、軍事的に一触即発の状態が生まれることになります。
その場合、イランやトルコ、パキスタンなども加わるのみならず、アゼルバイジャンなどのイスラム教国もイスラエルへの対抗軸となるでしょうし、何よりもすでに中東アラブ諸国と軍事面での相互戦略協定を結ぶ核保有国パキスタンが加わり、そこに中国とロシアがアラブ側に付くことで(台湾がなぜかイスラエルにシンパシーを示したことから、中国は反イスラエルの立場を鮮明にしたと言われている)、アラビア半島を舞台にした世界戦争が引き起こされることも予想されます。
そのような状況下でどれだけアメリカがイスラエルとの特別な関係に拘ることができるか?
そして本気でアメリカをまた中東地域に引き戻すという地獄を再現する覚悟があるのか?
その答えによっては、ネタニエフ首相が強調する“存亡の危機”が本当にイスラエルを襲う可能性が出てくるかもしれません(それでもまた、欧州は口だけ出して何もしないのでしょうが)。
今のところ、ガザ情勢の仲介を行っているウィトコフ特使とクシュナー氏はロシア・ウクライナ戦争の仲介に携わっているため、2正面での激しい仲介・調停は実質上不可能で、アメリカの早期コミットメントが期待できない中、誰が音頭を取って、危機を収めるのか?正直なところ、見当たりません。
ではアラブ・ムスリム諸国57カ国からの呼びかけに応じて、イスラエルがネタニエフ首相を排し、パレスチナ国家の樹立に向けたプロセスに合意すれば、この地を紛争地にした根本的な危機・原因を除去し、平和が訪れるのか?
歴史的な背景を見てみると、決してそんなに単純な話ではないようです。ちなみに“パレスチナ”は、一度も国であったことは無く、あくまでも【西アジアの東地中海海岸一帯を指す地域名】に過ぎません。
かつてはローマ帝国が統治し、その後、オスマン帝国の支配下にあった地域で、その後、第1次世界大戦でオスマン帝国が崩壊し、その後は欧米列強の欲と口八丁手八丁によって蹂躙され、気が付けばパレスチナ地域のど真ん中に、欧米の支援を受けてユダヤ人がついにホームランド、つまりイスラエルを1948年に建国すると宣言するのと並行して、アラブコミュニティーがアラブの国の建国を謳ったのが、今のパレスチナ問題の根本と言えるかと思います(かなり端折っていますが)。
今のアラブ諸国は、このパレスチナ地域の外にあり、それぞれが英国の企てを受けて建国できたのですが、このパレスチナ地域に至っては、アラブ諸国の統治下に置くべきとの主張を高め、【アラブ同胞の苦難を除去するために、イスラエルの存在を認めない】のがこれまでの流れとなっています。
ゆえに、57か国のムスリム・アラブ諸国からのイスラエルへの呼びかけは、一見、平和に向けた呼びかけでそれを受け入れないイスラエルとネタニエフ首相は悪というナラティブが作られていますが、その提言のauthenticityについては、詳細な分析が必要だと考えていることを申し添えておきたいと思います。
そして“アラブ諸国”自体、歴史上、“パレスチナ人(パレスチナ地域に住む人たち)”は、実は各国の国内治安を脅かす存在と認識されてきた背景があり、常に“アラブ同胞の保護”という建前と、“できればパレスチナ人には関わりたくない”という本音が入り混じっている心理も、現在のパレスチナ問題を見るにあたっては、頭の片隅に入れておかなくてはならないと考えます。
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