GoogleのTPUを挟み撃ちにする戦略
そんな中で発表された、NVIDIAによるGroqの買収(帳簿上は会社ごとの買収ではありませんが、実質的な買収です。詳しくは最下段の注釈を読んでください)は、驚きではありましたが、納得の行く買収でもあります。
驚きだったのは、Blackwell、Rubin、Feynmanと既定路線のGPUの進化を押し進めているNVIDIAが、GPUとは大きく異なるアーキテクチャのチップを提供する会社を買収することを選択した点です。NVIDIAのビジネスモデルは、常に世界で最先端の半導体技術を集めた高性能のGPUを市場に提供し続けることにより、1チップあたりの値段を高く維持し、高収益を上げ続けることにありますが、枯れた技術で作られたLPUは、そのビジネスモデルに水を刺すことになりかねません。
しかし、これまで敵なしと思われていたNVIDIAのGPUにも、GoogleのTPUという強力なライバルが誕生し、ついにOpenAIやAnthropicに対しての外販まで始めたことに、NVIDIAの経営陣が危機感を抱き始めていたことは確かだと思います。
現時点では、TPUが適用できる範囲は限定的ですが、NVIDIAの顧客の多くがTPUを活用するようになれば、NVIDIAのGPUの価格に下降圧力がかかることは避けられません。
LPUの技術を入手することにより、「最先端の半導体技術を使った汎用的なGPU」と「汎用性には欠けるが、枯れた技術で作られた高速な推論プロセッサであるLPU」でGoogleのTPUを挟み撃ちにして、TPUが適用できる範囲を狭めて行くという戦略を採用できるようになった点は、今回の買収の最大の利点と考えても良いと思います。
爆発する推論需要への対応
また、最近になって注目を集めて来たDRAM不足、DRAMとGPUコアを接続するCoWoS (Chip on Wafer on Substrate)プロセスの逼迫、2nmプロセスの価格高騰なども、NVIDIAをGroqの買収を後押ししたと考えることも可能です。
上に書いた通り、NVIDIAのGPUは、世界の最先端の半導体技術を結集して作られたものだからこそ、他者が追いつくことができない性能を誇りますが、それゆえ、製造コストは高くなるし、製造ラインの確保も簡単ではありません。需要がいくら伸びても、製造がそれに追いつかなければ、せっかくの需要に応えることができません。
その意味では、14nmのような枯れたプロセスで、かつ(供給が逼迫している)DRAMを使わないLPUを製品のラインアップに加えることは、これからさらに爆発的に伸びると予想される推論需要に柔軟に応えるという意味でも、とても大きな役割を果たす可能性があります。
株式市場は、この買収のニュースを受けてほとんど動きませんでしたが、私はとても高く評価しています。売り上げや利益に反映されるまでには、2〜3年はかかると思いますが、その時になって、「2025年のGroqの買収はとても賢い選択だった」と言われるようになると私は期待しています。
【注釈:買収の形について】
上に「買収」と書きましたが、表向きには会社の買収ではありません。会社を買収するとなると、独占禁止法上の調査が政府から入り、許可が降りない可能性があるからです。そのため、表向きは、「技術ライセンスを受けた上で、主要な人物を引き抜く」というビジネス上の取引の形にしてあるのです。
この手法は、NVIDIAだけでなく、GoogleやMicrosoftも採用している、ごく一般的なベンチャー企業の買収方法として定着して来ました。「法律が追いついていない」のが現状で、問題視している政治家もいますが、ベンチャー企業の創業メンバーや、ベンチャー投資家にとっては、大歓迎な話です。
(本記事は『週刊 Life is beautiful』2026年1月6日号を抜粋したものです。「私の目に止まった記事(中島氏によるニュース解説)」、読者質問コーナーなどメルマガ全文はご購読のうえお楽しみください。初月無料です )
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