すでに露見してきた「認識のずれ」からくる合意の崩壊
2つ目のズレは【10項目の内容】です。これについては、日本のメディアが伝えているアメリカと英国のメディアの解釈での10項目と、アルジャジーラなどのアラブ系メディアや、イランの国営放送が伝え、英BBCが英訳した10項目が異なるため、【10項目とは本当はどのような内容なのか?】が明らかでないところです。
これについては、パキスタン政府のコンタクト先にも確かめてみましたが、【10日、11日に協議が行われるにあたり、イランの10項目が具体的に何を指すのかは明かせないが、印象としては解釈が分かれるものであり、協議においてはそれぞれの定義と内容・詳細について話し合うものと理解している】とのことで、ズレが生じていることを暗に示していると考えます。
創造的な曖昧さ(Constructive Ambiguity)は紛争調停の場などではよく用いる手法でありますが、多くの場合、まずは【何をすべきか】を決め、そのための具体的な条件と合意内容の実施方法・時期などの詳細を協議で詰めていくというスタイルを取ります。
つまり、今回の“停戦・戦闘停止合意”においては、アメリカ・イラン双方とも戦闘終結・戦闘の停止を優先し、恒久的な停戦・解決に向けての諸条件についての交渉を後回しにしたということになります。
それはアメリカもイランも、この紛争の根本的な解決よりも、まずは両国内向けのメッセージと捉えることが出来ます。
アメリカの場合、何とかガソリン価格の高騰を押さえたいという、秋の中間選挙向けのニーズがあり、イランについては現体制を維持するための停戦(時間稼ぎのための停戦)を最優先したと考えられます。
ただ、トランプ大統領が今回の合意に対して【完全勝利宣言】を出した以上、米軍の早期撤退が行われることも意味し得ますが、それがこの合意の継続と効力発生を担保するものであるにも関わらず、その有無と可否については不透明です。
また一応、イスラエルも今回の合意の当事者で、同じく2週間の停戦には合意したものの、「この合意内容にレバノンは含まれない」と明言し、かつ「アメリカがイランの核の脅威を除去すると約束した」と述べるなど、すでに認識のずれからくる合意の崩壊が見えてきます。
実際にイスラエルは合意の次の日に、自国の主張を通しレバノンに対する攻撃を強め、イスラエルとレバノン南部との間に緩衝地を拡大しようとしていますが、「レバノンにおける停戦も合意の条件」と主張するイランはそれを“合意違反”として、ホルムズ海峡を再度武器として用いる宣言をおこなったというのが、現状です。
11日のイスラマバードでの本格協議(アメリカはバンス副大統領がヘッド)を前に、早くもこの合意の脆弱性が明らかになった格好ですが、仮に今回の停戦合意およびその内容を詰めるイスラマバードでの協議が不発に終わり、それを理由にアメリカとイスラエルが「文明が一夜で滅ぶ」ような攻撃をイランに対して行った場合には、トランプ大統領もネタニエフ首相もコントロールできない【筋書きのないドラマ】がスタートすることになりますが、本人たちがその危険性を理解しているかどうかは不明です。
そのような場合には、アメリカの中東介入は確実に泥沼化し、特にアメリカの地上軍が派遣されて地上戦が行われた場合には、イランの革命防衛隊の言葉を借りるのであれば、イランがアメリカ軍の墓場になることになるかもしれません。
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