中国「人型ロボット大国」という幻想。心臓部は「日本製部品」頼みという不都合な真実

 

補助金へ群がる新興企業群

人型ロボットの起業では、新興企業が「補助金目当てに参入」していることが事実だ。これによって、何が起るのかである。EVバブルと同じ構造が予想される。技術的に差別化できない企業が、大量に出現することで過剰競争が始まる。それは、EVバブルの再現である。利益率が急低下し、人型ロボットのもたらす「夢」だけで投資家を釣る「株式公開」によって資金調達し、多くの企業は生き残れない地獄絵が繰り広げられるであろう。「EVバブルの再来」になる可能性が極めて高いのだ。

人型ロボットは、一国製造業の到達すべき総合的な技術水準の象徴になる。それが、実際に商品化(実装化)されるには、その国の「産業構造・市場・投資環境」によって決まる。これは、人型ロボットの将来性を判断する上で極めて重要な点である。まず、中国の場合、人型ロボットが登場すべき客観的な条件(技術と市場)を満たしているかどうかが問われるのだ。

中国の人型ロボットの技術水準を精査すると、人型ロボットの心臓部は日本製部品が多いことだ。人型ロボットの性能を決める主要部品は、以下の通りで日本製品の独壇場だ。

1)減速機(ハーモニックドライブ)
ロボット関節の精度を決める最重要部品である。世界シェアの約60~70%が日本製である。中国企業は国産化を宣伝するが、精度・耐久性は日本製に遠く及ばない。こうして、中国の人型ロボットの多くは日本製減速機を使っている。

2)高精度モーター(サーボモーター)
安定したトルク(ねじりの強さ)・低振動・高効率が必須であることから、日本の安川電機、三菱電機、オリエンタルモーターが世界標準になっている。中国製は安価だが、発熱・寿命・精度で劣っている。中国の人型ロボットの高性能モデルほど、日本製モーターの採用傾向が強い。

3)センサー(IMU・力覚・距離)
ロボットの姿勢制御の要である。日本の村田製作所、TDK、オムロンなどが強い存在だ。中国製はノイズが多く、長期安定性に課題を残している。姿勢制御の精度が必要なロボットでは、日本製センサーを使っている。

4)リチウムイオン電池(高安全性セル)
日本製は安全性・寿命・安定性で、世界トップである。中国製は安価だが、発火リスクが高いという難点を抱えている。高信頼性が必要なロボットは、日本製電池を採用する。

以上のような背景から、中国が「全部国産化した」と言うのは宣伝であり、実態とは全く異なっている。中国企業は、投資家向けに「国産化率100%」を宣伝して、資金調達しているであろうが、実際は以下のような構造になっている。

主要部品は日本製、周辺部品は中国製、組み立ては中国国内、ソフトウェアは自社開発(ただし未成熟)である。「国産化」と言っているのは、組み立てと外装だけであって、心臓部は日本製のままである。中国製人型ロボットを動かしているのは、改めて日本製部品であることを指摘したい。

余剰人員抱え市場開拓困難

中国市場には、人型ロボットの需要がどこまであるのか。それは、既存の雇用を奪わず、労働力不足を補う役割を果たせるか、という視点である。これによって、人型ロボットが経済へ寄与するかどうか分かるのだ。人型ロボットの採用が、中国GDP成長へ役立たない限り、社会的な存在意義は割引かれる。すでに将来、ユーザーになる企業からは気になる発言が出ているのだ。

中国ネット通販大手の京東集団(JDドットコム)創業者、劉強東董事長(会長)は、『フィナンシャル・タイムズ』(6月22日号)で、「配達するのは、間違いなくロボットだ。70万人の配達員は仕事がなくなる」と警告した。この衝撃的発言は、「未来への警告」である。ただ、人的ロボットが、路地裏まで配達するには、現在の中国ロボット技術では不可能とされている。こういう事情から、劉氏は人型ロボットが配達員の代替役として、大量失業を生む時期について明言しなかった。

この発言の問題点は、人型ロボットが雇用を奪い失業者を生むという厳然たる事実にある。先進国では、人型ロボットが労働力不足を緩和する「助っ人」になる。中国は、雇用の「略奪」に変る。この違いこそ、中国の抱える最大の問題点である。これは、中国の産業構造が未成熟であることに起因している。ここで、経済発展と産業構造の変化についてみておきたい――(続きはご購読ください。初月無料です

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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。

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