人々が抱いたアメリカが内部から崩壊することへの不安
ちなみに、事件当時、危機管理と犠牲者への追悼、そして被災都市としての復興に辣腕を振るったジュリアーニ元市長は、当時は「聖(セイント)ジュリアーニ」と呼ばれる程の尊敬を集めていました。ですが、その後はトランプ氏に同伴して無理な政治運動を弁護するなどの結果、多額の負債を背負って現在は健康も害しているとのことです。
この類い希な才能が、どうしてここまで苦しむことになったのか、真相は不明ですが、個人的には、そのヒントは2008年の大統領選へ向けての共和党予備選の問題があるように思います。ジュリアーニは有力候補とされていましたが、まずNY市長ゆえに「中絶反対論や銃規制論に理解があるので真正保守ではない」として叩かれ、更には離婚歴があるので不適格だとバッシングを受けて潰されたのでした。
自分をそこまで叩きのめした「保守勢力」に対して、彼なりに逆襲する、そのためには「トランプ運動という極右に同伴」して、右から「保守本流」を叩きのめすことが必要だったのかもしれません。そうすれば、個人的な復讐になる、そう思い込んだ可能性があります。更に、離婚歴を叩かれた彼としては、2回の離婚と3回の結婚歴を堂々と公言している大将を支えることにも、意味があったのかもしれません。何よりも、圧倒的な権力を支えて、かつて自分を潰した人々を見返したかったのでしょう。
ですが、2020年の選挙に負け、これをひっくり返す策謀が行き詰まる中で、彼は訴訟の矢面に立って破滅していきました。民事で負けて財産を吐き出し、最終的には破産して和解したと伝えられます。一文無しとなった彼は、911被災者医療補償制度によって治療を受けているそうです。仮想通貨などで大儲けしているトランプ一族にすがることも可能かもしれませんが、これをしないことに彼なりの筋の通し方があるのかもしれません。いずれにしても、完全に過去の人となったのは間違いないでしょう。
さて、その後のニューヨークは、2008年のリーマン・ショック、2020年に始まるコロナ禍と、ほぼ10年ごとに大規模な災厄に襲われ、その都度、街を再建してきたことになります。けれども、911で傷ついたのは実はニューヨークだけではありませんでした。傷ついたのは実はアメリカ全体であったとも言えます。何故ならば、25年後の現在も、アメリカ全体を揺さぶり、壊そうとしている「分断」というのは、この911が原点だとも言えるからです。
25年前の「あの日」の直後、ニューヨーク近郊では多くの人が献血所に殺到していたのを記憶しています。被災者への輸血ニーズが高まったというのは事実でしたが、同時に人々の間には強い不安感情があったのだと思います。だから「何かをしなくては」といても立ってもいられなくなったのです。
それは、衝撃的な事件を契機としてグローバル経済によるアメリカの繁栄が倒されるという不安でした。アルカイダなど、イスラム原理主義者が次々に攻撃を仕掛けてくる不安というよりも、アメリカが内部から崩壊することへの不安であったのだと思います。
崩壊は3つの「分断」という形で実際に起きて行きました。
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