トランプも止められぬイスラエルとロシアの蛮行。和平より“自己保身”を優先する指導者たちの危険な共通点

New,York,,Ny,-,February,25,,2022:,Security,Council,Meeting
 

ウクライナ、ガザ、そして中東全域へと拡大しつつある暴走の連鎖。本来であるならばイニシアチブを発揮しすべての紛争を解決に導く役割となるべき国連は、今や完全に機能不全に陥っています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、グティエレス事務総長の「無力化」に象徴される国際社会の調整役とリーダーの不在を悲観的に指摘。さらに自己保身とエゴが支配する各国首脳の外交姿勢に対し、強い懸念を示しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:暴走と分裂、エゴの爆発が高める生存の危機を前にして気づく“調整役とリーダーの不在”

誰も止められぬ戦争。機能を失った国連と「モラルリーダー不在」が招く世界の破滅

【生存は何かによって勝ち取るご褒美なのではなく、人が生まれながらにしてもつ権利なのだ】

【何人たりとも武力と共生によって他人・他国の安寧・安心を踏みにじることは許されない】

【憎しみと恐怖からは何も前向きなものは生まれてこない】

【国家の樹立は人々に与えられた権利であり、何かに対する報酬ではない】

このようにノートにでも記して覚えておきたいと思う語録は、アントニオ・グティエレス国連事務総長がガザでの惨状に対して出した談話のいくつかの例です。

以前、Kofi Annan事務総長下の国連で紛争の調停に駆け回った時代のことを振り返りつつ、「国連事務総長の役割は平和の灯火として、モラルリーダーであり続け、平和の大切さを訴え、各国に自制を促し、争いを終結に導くための外交的努力を主導すること」と表現したように記憶していますが、現在のグティエレス事務総長は、素晴らしい語録を残すわりには、動きが遅く、ウクライナが3年半前にロシアによって侵攻された際にも、またガザがイスラエルによる圧倒的な武力によって破壊され始めた際にも、自制を促すメッセージは発出しても、モスクワやキーウに赴いて仲裁することもなく、イスラエルとハマス、そして関係国間での話し合いを主導することも、これまでのところ実施していません。

ポルトガル首相を長きにわたり務めたほか、私のメンターであったセルジオ・デメロ氏の後任の国連人権高等弁務官として活躍されており、人権の擁護そして法による支配は、グティエレス事務総長にとってはまさにライフワークであり、かつ中心的な政治アジェンダのはずですが、この部門でのリーダーシップも、もう2期目の任期が1年を切りましたが、これまで約9年間の任期中に見た記憶がありません。

このように記すと事務総長批判に聞こえるかもしれませんが、あのグティエレスさんが「全く行動を取らせてもらえなかった」という国際政治の裏側での事実が私たちに認識されることはほぼ皆無であったと言えるかと思います。

その主因は、彼の慎重には慎重を期すキャラクターにもありますが、一番は彼が率いる国連において、すでに国連安保理の機能が形骸化し、欧米と中ロの間の外交的なゲームと勢力争いの舞台にされてしまい、平和・安全保障の守護神としての役割、そしてそれを率いる事務総長としての役割をタイムリーに果たすことが“許されてこなかった”ことにあると考えます。

国連安全保障理事会における“報じられることのない、でも暗黙のルール”は、イスラエルの行いに対する決議案はアメリカの拒否権によって葬られ、チベットやウイグル案件は中国の激しい抵抗と内政干渉のそしり、そして拒否権にブロックされてきたということであり、加えて、今でもはっきり理由が理解できない「インド絡みの決議は絶対に通過しない』」という不文律です。

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