世界中のメディアが大きく報じた、ハマスによる人質の解放。しかしその裏では、依然として「衝突の火種」がくすぶり続けているようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、ガザ停戦後の裏側に潜む不安要因を解説。さらに中東・欧州・アジアを同時に揺るがす最悪とも言えるシナリオを提示するとともに、かような事態を阻止するために国際社会が取るべき対応を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:長期化する戦争たち─歓喜の裏で続く緊張と非常にFragileな“和平”
人質解放の歓喜の裏で依然続く緊張。長期化する各地の紛争が世界にもたらす混乱
2023年10月7日以来、久々に家族の元に戻った20名の人質の姿と、その解放の引き換えにイスラエルに解放された2,000名強のパレスチナ人。
それぞれの家に戻り、無事の帰還を、涙を流しながら喜ぶそれぞれの家族の姿を報道で見た際、私も感無量でした。
イスラエルでもガザでもトランプ大統領のリーダーシップを民衆が称える姿が映し出され、イスラエル国会で誇らしげに演説するトランプ大統領の姿を見ながら、「すごいなあ」と思う反面、「でもこれからが本当の正念場だ」とも感じました。
エジプトではガザ和平合意の第2段階、つまりガザの復興案、国際平和維持軍部隊(ISF)の設置、ガザの統治案、ハマスの武装解除、そしてイスラエル軍のガザからの完全撤退など、幅広く議論がなされるはずでしたが、実際には20か国ほどの首脳がトランプ大統領の功績を讃えるだけの会議になってしまい、具体的な中身や進め方について真剣に議論された形跡が見当たりませんでした。
一応、第1段階の履行を受けて、これまでのところイスラエル軍とハマスとの間の衝突は起きていませんが、実は10日の合意後、散発的な交戦は起きており、死者も出ているのが実情です(あまり報じられていません)。
そして気になるのが、ハマスと他のイスラム系武装勢力との間の衝突が起きており、イスラエル人の人質という交渉カードを手放したハマスへの仲間内での挑戦が起きていることと、今回の停戦合意に携わったハマスの政治部門(カタール・ドーハ在住)と、ハマスの軍事部門(カッサム旅団)との意見の調整が出来ておらず、ガザにおける内部抗争が激化し、それがさらなる悲劇を呼びかねないとの懸念を抱きます。
すでに10月13日には、ハマスがガザのコントロールを再掌握した模様で、“イスラエルに協力したとみなされるガザ市民”を公開処刑した映像が入ってきたのですが、ハマスもこの映像がフェイクではないと認めたそうで、停戦の歓喜の背後でさらなる恐怖が拡大している様子が覗えます。
和平合意の第2段階の目玉はハマスの武装解除だと考えますが、それには武器の引き渡しのみならず、ハマスがガザの地下に張り巡らせた軍事用トンネルを含むインフラの破壊を含むため、実施にはかなりの難航が予想されます。
またそれに加え、和平協議においては戦後復興およびガザの統治機構にハマスが関わらないことを条件として挙げていますが、こちらについてもハマスおよび関係機関の影響力がガザのいたるところに及んでいることと、ハマスは軍事組織と言うよりは“反イスラエル思想のグループ”という定義もあるため、ハマスの排除はかなり難しいか、不可能だと考えています。
先ほどの映像のエピソードでも分かるように、ガザのコントロールはまだハマスが掌握しており、市民はイスラエル軍の攻撃とハマスによる復讐の恐怖におびえ続ける日々がまだ続いていることが分かります。
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