安倍議会演説は、対米「再・属国化」宣言に聞こえる

 

米国が民主主義のお手本

第4に、米国民主主義への無条件の礼賛である。第2節で彼は言う。

私の名字ですが、『エイブ』ではありません。アメリカの方に時たまそう呼ばれると、悪い気はしません。民主政治の基礎を、日本人は、近代化を始めてこのかた、ゲティスバーグ演説の有名な一節に求めてきたからです。

リンカーンのファーストネームはAbraham=エイブラハムだから、間違って呼ばれるのは嬉しいということである。

農民大工の息子が大統領になれる──そういう国があることは、19世紀後半の日本を、民主主義に開眼させました。日本にとって、アメリカとの出会いとは、すなわち民主主義との遭遇でした。出会いは150年以上前にさかのぼり、年季を経ています。

これは本当かなあ。150年以上前とは、162年前の黒船来航のことなのだろうが、あの時ペリー提督は日本に帝国主義の恐ろしさを伝えたかもしれないが、民主主義の素晴らしさなど教えはしなかった。お世辞も度が過ぎている。

第6節では、戦後日本に米国がよくしてくれたことを讃えて、こう言う。

焦土と化した日本に、子どもたちの飲むミルク、身につけるセーターが、毎月毎月、米国の市民から届きました。ヤギも、2036頭、やってきました。

ミルク…、ヤギ2036頭…。敗戦国に対する施しに、ここまで卑屈になる必要があるのだろうか。

さらに第9節で安倍は言う。

戦後世界の平和と安全は、アメリカのリーダーシップなくして、ありえませんでした。省みて私が心から良かったと思うのは、かつての日本が、明確な道を選んだことです。その道こそは、冒頭、祖父の言葉にあったとおり、米国と組み、西側世界の一員となる選択にほかなりませんでした。

冒頭の祖父の言葉とは、第1節で彼が言ったことである。

1957年6月、日本の首相としてこの演台に立った私の祖父、岸信介は次のように述べて演説を始めました。「日本が、世界の自由主義国と提携しているのも、民主主義の原則と理想を確信しているからであります」。

岸の時代は冷戦真っ盛りで、反共の大義の下で「西側の一員」たらんとするのも分からなくはないが、それを現在に滑らせて、「反共」をそのまま「反中国」に置き換えて、西側と言っても西欧はすでに米国一極支配から離脱しつつあるなかで、日米だけで旧「西側」の世界観を死守しようとするかの極度の時代錯誤が安倍の頭を支配していることが窺える。

米国と組んで西側世界の一員となる、なんて今や死語だろうに。

並べ立てられた中国への嫌み

演説では、「中国」に一度も言及していない。オバマ政権が日本と中国・韓国との和解に心を砕いていることを思えば、それこそ未来志向の立場で日中関係の打開にひと言でも触れるべきだったと思うが、安倍はそれを忌避したどころか、間接的に中国批判を随所に折り込み、言わば嫌みのような形で中国を牽制した。

第10節では、米国のアジア「リバランス」を支持し、それを補完するため「日本は豪州、インドと戦略的な関係を深め、ASEANの国々や韓国と多面にわたる協力を深めていき」、「日米同盟を基軸とし、これらの仲間が加わると、私たちの地域は格段に安定します」と、日米豪印、それにASEAN、さらに韓国を加えた「民主主義連合」(?)で「対中包囲網」を形成しようとする意図を露わにした。

また同節ではさらに「国家が何か主張するときは」と中国を半ば名指ししながら、国際法に基づき、武力や威嚇を用いず、平和的手段で紛争を解決することが「アジアの海……の3つの原則」だとして、「太平洋からインド洋にかけての広い海を、自由で、法の支配が貫徹する平和の海にしなければなりません。そのためにこそ、日米同盟を強くしなければなりません」と見栄を切って、以下、集団的自衛権など安保法制と日米防衛協力のガイドラインの説明に進んだ。

さらにTPPについての第7節では、こう言う。

日本と米国がリードし、生い立ちの異なるアジア太平洋諸国に、いかなる国の恣意的な思惑にも左右されない、フェアで、ダイナミックで、持続可能な市場をつくりあげなければなりません。太平洋の市場では、知的財産がフリーライドされてはなりません。過酷な労働や環境への負荷も見逃すわけにはいきません。(これらを)許さずしてこそ、自由、民主主義、法の支配、私たちが奉じる共通の価値を、世界に広め、根付かせていくことができます。その営為こそがTPPにほかなりません。しかもTPPには、単なる経済的利益を超えた、長期的な、安全保障上の大きな意義があることを、忘れてはなりません。

つまり、TPPは経済・安保両面からの「中国包囲網」だと、改めて宣言したのである。

>>次ページ 安倍首相が陥りかねない落とし穴とは?

print
いま読まれてます

  • 安倍議会演説は、対米「再・属国化」宣言に聞こえる
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け