【国際情勢】2015年、岐路に立たされる日本(3)「“憲法改正”は中国の罠である」

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『ロシア政治経済ジャーナル』No.1145(2015.01.12号)より
第1回第2回

安倍総理を救った、歴史的大事件

安倍総理を救ったある歴史的大事件」とは? すぐ答えが出た人も多いでしょう。

そう、ロシアによる「クリミア併合」です。

アメリカ側からの論理(つまりプーチンはヒトラーの再来である)は、皆さんご存知ですね。では、ロシア側は、この歴史的事件をどう説明しているのでしょうか?

プーチンの怒りの原因は、2012年2月、ヤヌコビッチ大統領が失脚し、ロシアに亡命したことです。ヤヌコビッチは、民主的選挙で選ばれた大統領であり、なによりも親ロシアでした。

そして、革命によって誕生した親欧米新政権は、クリミア半島のロシア黒海艦隊を追放し、その場所にロシアの宿敵・NATO軍を招きいれる意向を示していた。

これが実現すると、NATO軍がロシアのすぐ隣に駐留するようになる。プーチンは、これが許せなかったのです。要するに、ロシアは「安全保障上の理由」でクリミアを併合した。

野心を挫かれたアメリカは当然反発。日本と欧州を巻き込んで、「ロシア制裁」を強化していくことにしました。

靖国を参拝した安倍総理。クリミアを併合したプーチン。「どっちがアメリカの脅威?」と質問すれば、100人中100人が「プーチンがアメリカの脅威」と答えるでしょう。

アメリカは、日本を「プーチン包囲網」に参加させる必要がある。それで、安倍総理がバイデン副大統領の警告を無視して靖国参拝を行ったことを「許した」のです。

形成される「陣営」

孤立したプーチン・ロシア。しかし、欧米がプロパガンダしているような「世界の孤児」になったわけではありません。

中国は、アメリカの制裁要求を完全無視して、ロシア側につくことにしました。なぜでしょうか?

中国が南シナ海を狙っているのと同じ理由。つまり、中国はロシアの石油・ガスをとても必要としている。(ロシアと中国は陸続きなので、アメリカは石油・ガスの流れを邪魔できない。)さらに、中国は、ロシアの最新兵器も必要としている。

これで、

アメリカ・EU 対 ロシア・中国

という世界の対立軸が鮮明なものとなりました。では、日本はどう動いたのでしょうか?

日本は、もちろんアメリカ側につくことにしました。遠慮がちながら、対ロシア制裁も発動した。

欧米(プラス日本) 対 ロシア・中国

冷静に考えて見ると、これは日本にとってきわめて有利な状況です。中国が何を目指していたのか、思い出してみましょう。

中国が目指していた構図は、

中国・ロシア・韓国・アメリカ 対 日本

です。

しかし、靖国参拝時の反応を見てもわかるように、事実上

中国・ロシア・韓国・アメリカ・欧州 対 日本

になる。なぜかというと、欧州はアメリカと一体化して動くことが多いから。こうなると、日本は1937年の日中戦争時同様、まったく勝ち目のない状態になります。

ところが、実際は、

アメリカ・欧州・日本 対 ロシア・中国

になった。

これで、中国の「反日統一戦線構築」戦略は、ひとまず挫折したのです。

中国の対日戦略は“続行中”

そうはいっても、全ての日本人は、中国の戦略を決して忘れるべきではありません。もう一度、中国の「対日戦略」を復習しておきましょう。

1、日本は「右傾化している」「軍国主義化している」「歴史修正を求めている」と全世界で強力にプロパンガンダする

2、中国、ロシア、韓国、【アメリカ】で【反日統一戦線】を構築し、日本を世界で孤立させる

3、これによって、日米同盟を破壊する

4、日中戦争時、アメリカが日本を助けない状況をつくりだす

5、尖閣、できれば沖縄も奪う

となります。

結局、中国の戦略の要は、「中国、アメリカ、ロシア(当時ソ連)は、一緒に日本をぶちのめした。ところが日本は、ふたたび我々に反逆しようとしている。だから、もう一度一体化して、一緒に日本をぶちのめそう!」です。

ちょうどいいチャンスというか、今年は終戦70年。いわゆる戦勝国の国々では、いろいろな催し物が予定されている。そのたび、「中国、アメリカ、イギリス、ロシア(当時ソ連)は一体化して、ナチスドイツと日本と戦った同志である!!!」と過去を思い出させることができる

そう、終戦70年の2015年は、中国がふたたび「反日統一戦線」を構築する絶好のチャンスなのです。

二つの大問題

しかし、中国が「日本は右傾化している」「軍国主義化している」「歴史を修正しようとしている」と主張するとき、その「根拠」「証拠」が必要になります。それはなんでしょうか?

中国が使っている一つの証拠は、「靖国参拝」です。このプロパガンダが世界でかなり浸透していることは、2013年末の総理参拝で明らかになりました。

今年は、さらに二つの問題に焦点があたりそうです。一つは、「安倍談話」です。

青山繁晴先生は、「総理はわざわざ問題をつくっている」とおっしゃられていますが、私も賛成です。「村山談話」と同じ談話は出せないでしょう。同じ内容なら出す意味がない。

では、たとえば「日本は侵略国ではない」というニュアンスの談話を出せばどうでしょうか? 日本の保守は、「あっぱれ!」と喜ぶことでしょう。私だって、心情的には喜ぶに違いありません。

しかし、すべての言動には、「結果がつづく」ことを考えなければなりません。

プーチンが「クリミア併合」を断行したとき、ロシア国民は大喜びでした。その後「過酷な制裁」を課され、ルーブル暴落とインフレで生活が苦しくなるなどと考えた庶民はいなかったのです。

「保守派を喜ばす安倍談話」の結果はどうでしょうか? そう、中国の主張、「日本は歴史の修正を目指している」の証拠になってしまう。いったい「歴史の修正」とはなんでしょうか?

いままでの歴史観の本質は、

アメリカ・イギリス・ソ連・中国=善  日本=悪

です。

これを安倍総理は、

日本だけ=善  アメリカ・イギリス・ソ連・中国=悪

と「180度ひっくり返したい」ように戦勝国からは見える。

こういう「歴史観修正」は、日本人にはうれしいことではありますが、戦勝国側は決して受け入れられませんし、許さないでしょう。つまり、「安倍談話」は内容次第で、「アメリカ、イギリス、中国、ロシア」を同時に敵にまわす危険性を秘めているのです。

安倍総理は

・支持基盤である保守派の喜ぶ談話を出せば、世界的に孤立し、中国の罠にはまる

・戦勝国を喜ばす談話を出せば、支持基盤である保守派を幻滅させる

という、非常に厳しい状況に自らをおいてしまったのです。それで青山先生は、「自分で問題をつくっている」とおっしゃった。そう、一番いいのは、「安倍談話」を出さないことです。

もう一つの問題は「憲法改正」です。

選挙で大勝した安倍総理は、いよいよ「憲法改正」に意欲を見せはじめました。

皆さんご存知のように、私は「アメリカ製憲法」を「神聖視」していません。心情的には、「アメリカ製憲法はどんどんかえてしまえ!」と思います。それどころか、「日本人自身の手で憲法をつくれ!」とすら思います。

しかし、事実として、憲法改正を一番喜ぶのは習近平です。

日本がアメリカ製憲法を直せば、日米関係はよくなりますか? 悪くなりますか? 日米関係が悪くなれば、中国は尖閣、沖縄をとりやすくなりますか、とりにくくなりますか?

だから、私は、安倍総理が「中国の罠」にはまる、現時点での「憲法改正」に反対です。それで得をするのは、中国と韓国なのですから。

というわけで、中国は今年、「終戦70年」というキーワードを利用して、ふたたび、中国、ロシア、韓国、アメリカによる「反日統一戦線構築」にまい進するという話でした。

日本は、「安倍談話」「憲法改正」など、中国のプロパガンダの正当性を裏づけるような言動について、極力慎重であるべきです。

ここで失敗すれば、日本は中国の罠にはまり、「いつか来た道」を歩みはじめることになります。しかし、ここを見事クリアできれば、日本は安泰でいられるでしょう。

2015年、岐路に立たされる日本(1)
2015年、岐路に立たされる日本(2)

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