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近々上場で時価総額「Apple超え」か。サウジ国営石油会社の将来性とリスク=シバタナオキ

近々上場すると見られるサウジアラビアの国営石油会社「サウジ・アラムコ」を分析します。純利益ではAppleを超えており、時価総額200兆円を目指すとしていますが、可能なのでしょうか。(『決算が読めるようになるノート』シバタナオキ)

※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2018年5月1日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:シバタ ナオキ
SearchMan共同創業者。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。元・楽天株式会社執行役員(当時最年少)、元・東京大学工学系研究科助教、元・スタンフォード大学客員研究員。

純利益はすでにApple超え。時価総額200兆円を目指しているが…

サウジの国営石油会社、近々上場か

今回は近々上場すると予想されている、サウジアラビアの国営石油会社である「サウジ・アラムコ」について書いてみたいと思います。

以下の記事にある通り元々はアメリカの企業でしたが、1980年代にサウジアラビア政府によって100%国有化されたという経緯があります。

サウジ・アラムコは、もともとロックフェラー家の支配するスタンダート石油カリフォルニアがサウジアラビアでの石油開発の権益を獲得した際、現地の子会社として発足しました。ですので、ルーツはアメリカの会社であり、幹部社員はアメリカ人でした。(中略)

その後、産油国各国におけるナショナリズムの台頭にしたがい、「石油会社を国有化しよう!」という機運が高まります。このためサウジアラビア政府は、1970年頃からアラムコの株式取得に動き、まず25%を購入しました。そして1970年代後半には60%、80年代には100%を取得し、完全にサウジアラビアの所有になったのです。つまり、サルマン国王がサウジ・アラムコの所有者であるというわけです。

出典:サウジアラビアの国有会社サウジ・アラムコのIPOで世界最大の上場企業が誕生! IPOを成功させるためなりふりかまわず原油価格を吊り上げる可能性も! – ザイ・オンライン(2018年1月8日配信)

今回の上場を噂される報道においては、サウジアラビアの皇太子であるムハンマド皇太子が、石油への依存を脱するために、国有企業を一般の株式会社のような形にして、透明性の高い経営を目指していると言われています。

参考:サウジ・ムハンマド新皇太子、脱石油へ改革主導 – 日経新聞

ムハンマド皇太子は、ソフトバンクビジョンファンドへの投資を主導した人物とも言われており、脱石油を率先して掲げている若いリーダーだとも言えるでしょう。

上場準備が進んでいく中で、サウジ・アラムコ社の財務が少しずつ明らかになってきたので、現時点で見えている範囲で考察してみたいと思います。

純利益はApple超え、半年で$33.8B(3兆3,800億円)

始めに純利益を見てみましょう。

驚くべきことに、2017年の上半期で$33.8B(3兆3,800億円)と、Appleよりも大きな純利益を生み出す会社がサウジ・アラムコです。

グラフを見ればわかる通り、Apple、サムスン、Microsoft、Googleといった会社だけではなく、シェルやエクソンモービルなど、アメリカの大きな石油会社よりも圧倒的に大きな純利益を生み出している会社です。

事業からもたらされるキャッシュフローが$52.1B(約5兆2,100億円)と、エクソンモービルやセルに比べても非常に大きいだけではなく、ネットの有利子負債が$1.3B(約1,300億円)と、本業のサイズに比べて非常に小さいのが特徴的です。

つまり、事実上の無借金経営だと言っていいレベルの石油会社になっています。

こうしてみるとすべてが完璧に見えるサウジ・アラムコですが、配当額を見ると、エクソンモービルやシェルの2倍程度しかありません。

つまり、利益は十分出ているにも関わらず、株主への配当は相対的に小さいとも言えます。

Next: 完璧に見えるサウジ・アラムコにある、取り除けない大きなリスク



最大の懸念は50%の法人税+20%のサウジ政府へのロイヤリティ支払い

配当が相対的に小さくなる理由の1つは、50%の法人税を支払っているだけではなく、20%以上のロイヤリティをサウジアラビア政府に支払っているためです。

The royalty is set at marginal rate of 20 percent for oil prices up to $70 a barrel, 40 percent between $70 and $100, and a 50 percent in excess of $100.

このように書いてありますので、

・1バレルあたり$70(約7,000円)までの分に関しては20%
・$70(約7,000円)から$100(約10,000円)の間の部分に関しては40%
・$100(約10,000円)を超えた分に関しては50%

のロイヤリティを、サウジアラビア政府に支払う必要があります。

石油の採掘はサウジアラビア政府の許可がないとできないわけですから、仕方がないと言えば仕方がない理由です。しかし投資家から見ると、このロイヤリティが気になる人も多いのかもしれません。

さらに詳しい解説が以下の記事にあるので、もう少し詳しく見てみましょう
参考:The Saudi Aramco IPO Math Problem: Cash > Barrels

図の濃い青色の部分がサウジアラビア政府へのロイヤリティ、赤の部分が法人税、黄色い部分が営業費用や減価償却費用になります。

1バレルあたりの価格は$65(約6,500円)だったとすると、サウジ・アラムコ社の利益は約$18(約1,800円)になります。

Next: サウジ・アラムコが時価総額$2T(約200兆円)になるためのシナリオは?



時価総額$2T(約200兆円)になるためのシナリオ

ムハンマド皇太子は、サウジ・アラムコが上場する際には、$2T(約200兆円)以上の時価総額になるだろうと発言しています。

果たしてそれだけ大きな時価総額をつけるのは、どれだけ現実的なのでしょうか

こちらの図は、各石油会社の時価総額と、フリーキャッシュフローの関係を比較した図になります。

例えばExxonMobilの場合、フリーキャッシュフローが時価総額の約5%になっていますので、逆に言えば時価総額はフリーキャッシュフローの20倍程度ということになります。

こちらの図は、ブルームバーグによる時価総額の予想チャートになります。

横軸は、上で見たような時価総額とフリーキャッシュフローの割合、縦軸は1バレルあたりの石油の価格になります。

これを見れば明らかな通り、時価総額が$2T(約200兆円)になるためには、石油の価格が1バレルあたり$80(約8,000円)になり、かつ、サウジアラコム社がフリーキャッシュフローの20倍というマルチプルで評価される必要があります。

ブルームバーグの分析によれば、一般的に論理的に考えると、$2T(約200兆円)という時価総額は、相当難しいという分析がなされています。

とはいえ、株式市場というのは売り手と買い手の圧力で値段が決まるものですので、実際に上場が実現した際にはどのような株価になるのか、注目して見守っていきたいと思います。


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『決算が読めるようになるノート』 2018年5月1日号『Appleを時価総額で超える!? サウジ・アラムコのビジネス規模が少しずつ明らか』より抜粋
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