あの頃、俺たちを熱くした「昭和のオモチャ」をオトナ買い(落札)して振り返るシリーズ連載。今回は「消える魔球」でおなじみ、あの対戦型野球盤です。僕らの友情を育て、そしてぶち壊していった昭和の名機。オトナになった今遊ぶと、果たしてどんな思い出が蘇るのか? そこには、遊び倒した者だけがわかる、友情と情熱、そして熱いドラマが詰まっていた。
消える魔球は何投まで? 友情を作り、友情を壊した俺たちの「野球盤」
日本各地で「俺ルール」が制定されたのではないでしょうか。そんなオモチャの話です。
兄弟や友達とは遊びの中で友情を育て、人間関係を広げていきます。現代では携帯型ゲーム機で協力プレイや対戦プレイをしたり、キャラクターを交換したりといった遊びとなりましたが、昔は……というと? ふと自分が育ってきた過程を思い返してみたのですが、遊びの内容こそ違えど、やはり協力して力を合わせたり、対戦で競い合ったりしていたような気がします。
今回の昭和オモチャは「野球盤」。
僕らの友情を育て、そしてぶち壊していった対戦型野球ゲームです。野球盤の歴史は古く、同様のボードゲームは戦前まで遡りますが、最もメジャーなのはエポック社の「野球盤」。
初代は1958年(昭和33年)に発売。当時は木製で、プレーヤーはこけし人形。盤面は家具職人が作成するといった木工技術の詰まったオモチャでした。
その後「野球盤A-2型」、「野球盤D型」などリニューアル品が登場。1960年台になると鉄腕アトムとコラボした「アトム野球盤F型」、巨人の星とコラボした「巨人の星野球盤C型」など、キャラクター野球盤も登場します。
そして1972年についにあの機能が搭載されます。話題作であり、問題作。「オールスター野球盤BM型 魔球装置付き」が発売されるのです。
現代まで続く野球盤の歴史で、初めて「消える魔球」を搭載しました。この魔球に関しては、勝負に大きな変化をもたらしましたが、同時に争いも生み出したのではないでしょうか。
「ふざけるな」 「1イニング◯回までと言ったじゃないか!」 「昨日使っていなかった貯金を使った」
スタジアムの外で繰り広げられる「リアル場外乱闘」。なんという低レベルな戦い、なんという無常観。しかし、当事者にとっては真剣です。プロ野球は当時、子どもたちの憧れのスポーツであり、勉強ができるよりも野球が上手いことがヒーローの証です。テーブルの上での野球盤でも、全力で勝ちを取りに行かねばならぬ戦いだったのです。
今回入手した野球盤は1978年に発売された「ジャイアンツ野球盤BM型」。エポック社はかつてよりジャイアンツを贔屓にしており、巨人軍コラボの野球盤も幾つか登場していますが、これもそのひとつ。ちょうどいまアラフォーの世代が遊んだ野球盤ではないでしょうか。