このとき、プルマンも合併には反対ではありませんでした。しかし、彼には気がかりな点が一つありました。それは金銭面の問題ではなく、新会社の「社名」が何になるかでした。そのことを見抜いたカーネギーは、プルマンから、
「ところで、社名ですが…」
と切り出されたとき、すぐさま「プルマン・パレス車両会社にしましょう」と提案します。そこから交渉はトントン拍子に進み、合併が実現。新会社は大きなシェアを取り、カーネギーは巨大な利益を得ることになりました。
このようにメンツの問題は、交渉において非常に重要な要素となります。カーネギーは、相手の心理を読み、相手のメンツを立てることで実利を取り、自分が思う通りの結果を得ました。逆に、交渉でメンツにこだわることにより、ほかの条件をすべて丸呑みしなくてはならなくなることもあります。
私は、メンツやプライドを大切にすることを否定するわけではありません。ただし、交渉において絶対に譲れないメンツの問題がある場合、それが不利な材料になる可能性が高いことはあらかじめ覚悟しておかなければなりません。
交渉前には、そのメンツがどれほど重要なもので、代わりに飲まされる可能性のある不利な条件に、どこまで譲歩できるのか、ということをあらかじめ検討しておく必要があります。
メンツは感情の問題ではありますが、交渉におけるリスクについては論理的に検討することが求められるのです。
今回は、ここまでです。
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