「悪役の俳優を本当の悪人だと思っているおばさん」を見てバカだなと笑う方、もしかしたらあなたも同じ穴のムジナかもしれません。無料メルマガ『ビジネス発想源』の著者・弘中勝さんは、世の中は「演出」で溢れかえっているにもかかわらず、それを疑いもしない「本質を知らない人」が多すぎると指摘。それは先に述べたおばさんのみならず、感動のスピーチをした人を本当の善人だと思い込み、SNSで大量に拡散させるネット民も同じだという厳しい意見を記しています。
演出な世の中
プロレスラーの中には、「ヒール」と呼ばれる人がいます。これは悪役、悪玉の人です。例えば凶暴なラフファイトで攻撃をしたり、観客をバカにしたりします。
もちろん、これは「役」です。主役と悪役が戦っていて、主役が悪役に苦戦しているけれども、そのうち主役が悪役に勝つと、盛り上がります。もしくは悪役が主役に勝ってしまうと、まさかの番狂わせに、これも盛り上がります。
つまり、それぞれに役があるからプロレスの試合が盛り上がるのであって、ヒールの人は本当に極悪人ではないのです。悪役という演出をしているだけです。
これは、例えばスポーツ選手の会見にも言えることですし、政治家の演説にも言えることです。いろいろな発言をしているのですが、演出なのです。すごくいいことを言っている時には、「いいことを言う」という演出をしていて、すごく嫌われることを言っている時には「嫌われることを言う」という演出をしています。
書籍などを読んで、その著者が書いていることも、大抵は演出です。世の中で目にすることは、演出だらけなのです。それが分かっていない人は、これからの時代は非常に大変です。
昔はよかったのです。テレビで悪役を演じている人を見て、「この人、本当に悪い人だね」などと本気で思うオバサンがいても、勝手に思っておけばいいだけでした。ところが、今のようにSNS時代になると、「この人はいい人だ! いいこと言ってるし!」「この人は悪い人だ! 悪いこと言ってるし!」なんていう勘違いを、平気で他の人へと発信してしまいます。
現に、ネット上では定期的に「伝説のスピーチ」みたいな話題が拡散され、「涙が止まらない」とか「素晴らしすぎる」とか、やたら書き込む人が増えます。涙が止まらないなら勝手に泣けばいいのに、別に涙が出ているわけでもないのに「涙が止まらない」なんて平気で書くのです。
でも、そのスピーチは、「涙が止まらない」とか書かせて拡散させるために原稿を書いた裏方のブレーンが作っています。ブレーンが作った良い原稿を、演者が読んだだけなのに、「この演者は良い。素晴らしい」と錯覚して、それを平気で他の人に押し付けてしまう。
「そういうものにはブレーンがいるものだ」という演出を分かる聡い人も増えてきましたが、それでも演出だと分からない鈍い人が拡散させるツールが進化してきたことで、演出の効果はますます肥大化していっています。