卓越したマーケティング戦略
ネスカフェは卓越したマーケティング戦略によって広く普及したといえます。
2014年5月、ネスレ日本による「ネスカフェ アンバサダーによるオフィス市場の開拓」プロジェクトが、第6回「日本マーケティング大賞」を受賞しました。同賞は、新たな需要を掘り起こし、あるいは市場を再活性化した優れたマーケティング活動に対し、公益社団法人日本マーケティング協会が授与するものです。
日本でのコーヒーの年間消費量は約500億杯とされていますが、そのうちの約6割が家庭で飲用されています。そのため、ネスレ日本は4割程度の「家庭外市場」にはあまり注力しませんでした。しかし、国内市場の伸び悩みが続いていたため、「家庭外市場」の約7割を占める「オフィス市場」に着目するようになりました。
ネスレ日本は、オフィスで働く人たちが手軽にコーヒーを楽しめる環境にはなっていないと考えました。
かつては、勤めている会社がコーヒーを購入し、手軽にコーヒーを楽しむことができました。しかし、経費削減が叫ばれるようになったことで会社によるコーヒーの購買が低下したため、職場でコーヒーを手軽に飲むことができなくなりました。また、オフィスビルの高層化が進み、外に出てコーヒーを購入することをためらう企業人が増えていきました。
こうした背景から、オフィスではコンビニのコーヒーや自動販売機の缶コーヒーが飲まれるようになりました。そのため、ネスカフェがオフィスで飲まれなくなるようになりました。そこで、ネスレ日本はネスカフェをオフィスで手軽に飲んでもらいたいと考えたのです。
2012年11月より、「ネスカフェ アンバサダー」として主にオフィス向けに「バリスタ」「ドルチェグスト」といった1万円前後のコーヒーマシンを無料で貸し出すサービスを開始しました。
「アンバサダー」とは「大使」という意味です。ネスレのコーヒーをそれぞれの職場で楽しんでもらうために、ネスカフェアンバサダーが文字通り大使となって職場に普及させていきます。
アンバサダーとしては、1万円前後のコーヒーマシンが無料で借りられるメリットがあります。ネスレ日本としては、オフィスでコーヒーを定期購入してもらえるので、継続的な収益が得られるメリットがあります。このビジネスモデルは、コーヒーマシンとコーヒーの両方を提供することができるネスレ日本ならではといえるでしょう。
アンバサダーはネスカフェを通販で購入し、ネスカフェを職場で楽しんだ人はアンバサダーに代金を支払います。アンバサダーが販売員の役割を担い料金を聴取します。そのため、ネスレ日本は人件費を省くことができます。
ネスレ日本は広告などを通じてアンバサダーを募っています。簡単な選考はあるものの、応募者のほぼ全員がアンバサダーとして任命されます。
アンバサダーは顧客というよりもビジネスパートナーという位置づけです。定期的にアンバサダーをホテルに招待して「サンクスパーティー」を開き、芸能人を呼んだりビュッフェ形式の食事を提供したりしてアンバサダーをもてなしています。アンバサダーに対する期待の強さがわかります。