「住吉の長屋」を始めとして数々の住宅建築を手掛けてきた安藤忠雄さん。信じられないかもしれませんが、最初から建築家として順風満帆のキャリアを歩んできたわけではありません。そんな安藤さんは無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』の中の演出家・宮本亜門さんとの対談で、必死で逆境に立ち向かった若き日のガムシャラぶりを語っています。
“死に物狂い”が道を開く
建築の専門教育を受けることなく、独学で建築家として必要なことを自ら学び取っていった安藤忠雄さん。若い頃の向学心に燃えた安藤さんの姿勢には鬼気迫るものがあります。
安藤忠雄(建築家)×宮本亜門(演出家)
宮本 「安藤さんは確か一時期プロボクサーになられていますよね。これはどういう理由で?」
安藤 「家が貧しかったから、早く稼いで祖母を楽にしてあげたいと思ってました。高校生の時に双子の弟がプロボクサーになったこともあって、ボクシングジムを見学したら、当時サラリーマンの給料が1万円の時代に、4回戦のファイトマネーが4,000円なんですよ。えっ、喧嘩してお金くれるの? こりゃええなと(笑)。
1か月くらい練習してプロになったんですけど、後に世界チャンピオンとなるファイティング原田が練習に来た時に、圧倒的なレベルの差を実感しました。才能というのはあるんですね。それでさっさとやめました。
経済的な事情と学力の両方の理由から大学には行けず、建築の専門教育も受けられなかった。ならば自分で勉強しようと。19歳の時に、建築学科の学生が4年間かけて学ぶ専門書を1年で全部読もうと決心し、毎朝9時から翌日の朝4時まで机に向かいました。睡眠時間は4時間。4月1日から翌年の3月31日まで、ほとんど外出もせず、無我夢中で勉強したんです」
宮本 「鬼気迫るものがあります」
安藤 「2級建築士と1級建築士の資格を取る時も、いずれも一発で合格しようと覚悟を定め、仕事の仲間と昼食に行く時間も惜しんで、パンを2つ食べながら一人黙々と建築の専門書を読んでました。『安藤は頭がおかしくなったんか』と冷たい視線を向けられたりもしましたが、おかげで両方とも一発で合格することができたんです。
若い頃に、一度は死に物狂いで物事に打ち込んでみることが必要です。目標を定めたら何が何でも達成するんだという意志を持たないと。独学であっても強い覚悟と実行さえあれば道は開ける。これは私の実感であり、体験を通して掴んだ一つの法則です」
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