先進国の労働力不足。このままでは移民争奪戦で日本が勝てぬ理由

 

いずれ外国人労働者もソッポ向きに

このため、これまでは単純労働など限られた5分野しか認めてこなかった外国人労働者の在留資格の対象業種を来年4月から倍増させる方針という。これまでは農業、介護、建設、宿泊、造船を想定していたが、今後は金属プレスや鋳造など製造業の一部、食品加工、水産、外食産業、物流などを加える方針で、人手不足分野については、日本語能力や一定の技能を持つ外国人には最長5年まで日本で働くことを認める。さらに技能と日本語能力で新たな試験に合格し新資格を得た人は家族帯同を認められ、上限なく在留期間が更新でき永住の道が開ける方針ともいう。

ただ先進国では労働力不足がどこも日常的になっているため、給与や社会保障、医療の手当てなど福祉対策なども整えてゆかないと、日本に来てくれる人がだんだん減ってゆくのが現実だ。過去のように「働かせてやるから来てもよい」「給料は低目に…」などとタカをくくっていると日本で働くことを嫌がる外国人が出てくることは必定なのだ。「人手不足解消といった手前勝手な理由だけで「労働開国」を宣言しても、外国人労働者からソッポを向かれてしまうことを十分認識する必要がある時代になっているということだ。

ドイツでは3年前から率先して難民の受け入れを行ってきたものの、難民排斥を掲げる右翼政党が登場して受け入れがだんだん難しくなっている現実も出ているという。しかし、経済界、特に中小企業の間ではいまや難民労働者を働き手として受け入れないと事業が成り立ってゆかない企業も増えつつあるのが現実らしい。このため、ドイツでは「人道的な理由だけでなく経済的にも難民を受け入れないことはドイツの損失になる」という運動が広がり始めているという。

また、ドイツではかつての高度成長期にトルコから多くの労働者を受け入れ、問題となって二国間協定を結んだ。今は移民系といわれる労働者の割合は全人口の24%に達している。中小企業などではドイツ人を募集しても容易に人が集まらないからだ。

日本でもそろそろ期間を区切った外国人労働者だけでなく、移民の受け入れを正面からプラス面、マイナス面を考慮して移民開国の是非を検討する時期に来ているのではなかろうか。

(TSR情報 2018年10月18日)

image by: humphery / Shutterstock.com

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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