「津波の高さの想定を下げろ」原発事故を招いた東電副社長の一言

 

今年4月10日の第5回公判。東京電力で津波対策を担当していた社員は「権威のある組織の評価結果であり、想定の見直しに取り入れるべきだと思った」と証言した。

その社員は、2008年3月、東京電力のグループ会社「東電設計」から、「長期評価」をもとに計算した結果について報告を受けた。福島第一原発の敷地に最大15.7メートルに達する津波が押し寄せる可能性があるという内容だった。従来の想定を大幅に上回る数値だ。

社員は同年6月、武藤元副社長に「津波の高さの想定を引き上げ、その対策をとることが必要になる」と報告した。武藤元副社長は同意したかに見えたが、その翌月、武藤氏から社員に告げられた回答は「土木学会に検討を依頼する」というものだった。

実は、「最大15.7メートル」という試算をこの社員が知る前の同年2月、東電社内で、「御前会議」と呼ばれる重要な経営トップの会合があったことが今年9月5日の第24回公判で明らかにされた。

東電で津波対策を担当するセンター長だった元幹部の供述調書が証拠として採用され、検察官役の指定弁護士が次のように読み上げた。

2008年2月、勝俣元会長や武藤元副社長らが出席する『御前会議』で、津波の想定の引き上げで新たな対策が必要になることを報告し、異論なく了承された。

この供述が正しければ、東電トップは新たな津波対策の必要性を2008年2月時点で認識していたということになる。

これについて、武藤元副社長は「津波の説明は受けていない。(御前会議は)あくまでも役員の情報共有の場で、決める場ではない」と答え、元幹部の供述と食い違いをみせた。

「15.7メートル」の数字が出たあと、元幹部は武藤副社長から「なんとか津波の想定の高さを下げられないか」と「指示」されたという。

供述調書のなかで元幹部は会社の判断の背景を次のように語っている。

対策工事には4年以上かかり、国や地元から福島第一原発の運転を停止するよう求められる可能性があった。数百億円かかる工事は容易ではなかった。当時は新潟県中越沖地震の影響で柏崎刈羽原発も停止し、会社の収支が悪化していた。武藤副社長の指示には私を含め反対する幹部はいなかった。

福島第一原発事故を防げなかった過失を問うこの訴訟。勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の旧経営陣3人が検察審査会の議決によって業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴されたが、3人とも「事故の予見や回避は不可能だったと無罪を主張している。10月19日の第32回公判では武黒一郎元副社長が「長期評価をもとに対策を決められる状況になかった」などと答えた。

いつ来るかわからない災害。自分たちの任期中はたぶん大丈夫。御前会議をそんな空気が包んでいなかっただろうか。「長期評価」と真正面から向き合い、万全の対策を打っておけば…という後悔の念さえ東電経営陣にはないのかもしれない。

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