客に媚びない。日本や台湾の若手らが炙り出す、10年後の自国の姿

 

しかし、社会問題を抱えているのは香港だけではありません。香港は中国との特殊な関係性を抱えていることは独特ですが、報道の自由問題や環境汚染問題などは世界各国共通の問題です。そこで、映画『十年』プロジェクトが発足しました。参加国は今のところ日本台湾タイの3国で、日本版の若手5人の監督が選んだテーマは、空気汚染、高齢者社会、徴兵制、IT、デジタル社会の5つです。詳しい内容については以下のサイトをご参照下さい。

香港映画『十年』がアジアで大プロジェクト化!日本版総指揮は是枝監督、タイ版はアピチャッポン監督が名乗り!台湾も参加し国際共同プロジェクトへ!

そして、日本版の若手監督のまとめ役であるエグゼクティブプロデューサーを務めたのは『万引き家族の是枝裕和監督です。釜山映画祭で日本版『十年』が上映された後の記者会見で、このプロジェクトに参画し、どう支援してきたかと質問された是枝監督は以下のように答えています。

20年位前に侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督と懇意にさせていただいている中で、彼が将来的にアジアの国境を越えて、日本と韓国と台湾と香港と中国の監督達が一同に集まってインディペンデントで、その当時はまだ発想として16ミリでしたけど、それぞれ映画を作って公開をしていく、国境をこえたプロジェクトを作りたいんだと、1993年に話をされていたんです。

 

その時、僕はまだ映画監督でなかったけど、ホウさんがそういう話をされていて、「そういうの作ったら、お前が監督になったらそこに来て作れよ」って誘ってくれたんですよ。それがもう25年近く前になりますけど、未だに僕の頭の中に残っていて、今回のプロジェクトの話を頂いた時、真っ先に思い出したのはそのことでした。

是枝監督は、近隣諸国、そして世界と関係することで世界観を刺激させベテランが若手の創作場所を提供することが自分の役割だとも言っています。なにかと保守界隈では批判も多い是枝監督ですが、アジア各国のさまざまな問題点をあぶり出すこの映画プロジェクトは、意義のあることでしょう。

もちろん作り手の意図が反映されているため、厳密に公平な内容かどうかはわかりませんが、さまざまな問題がアジアに存在していることを知るだけでも意味があります。

ご存知の方も多いと思いますが、侯孝賢監督は台湾の映画監督で、2.28事件を扱った映画『悲情城市』では、ベネチア国際映画祭のグランプリを受賞しています。侯孝賢監督はやはり先見の明がありますね。ただ、それが実現するまでになんと25年もかかるとは、時間がかかりすぎな感じがしますが。ともあれ『十年』は香港、日本、台湾、タイの連携でスタートしました。

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