特養ドーナツ死亡事故の「有罪判決」で分かった現場の過酷な実情

 

昨年10月にも、2013年に認知症で入院していた男性(95歳)車いすに乗って一人でトイレに行き転倒その後寝たきりの状態となったことに対し、親族が病院側を訴え、約2,770万円の損害賠償を命じられる判決がありました。この時も裁判官は「男性は歩く際にふらつきが見られ、転倒する危険性は予測できた。速やかに介助できるよう見守る義務を怠った」と判決理由を述べたそうです。

今回のような判決が出るたびに、介護現場で働く人たちは戸惑います。「現場はいったいどこまで責任を負えばいいのか?」――と。

もちろん今回の事例では、「おやつがゼリーに変更」になっていた中で、ドーナツを配ったのは問題なのかもしれません。しかしながら、介護現場では喉を詰まらせたり、転んだりは日常茶飯事で、慢性的な人手不足の中で現場の人たちはできる限りの手を尽くします

それでも不幸にして事故は起きる。一瞬目を離した際に、食事がのどにひっかかりむせてしまったり、転んでしまったり。現場は常に危険ととなりあわせです。その「危険」をどう考えるのか?危険が絶対にないように施設はしなきゃいけないのか?

ちょっとした“事故”になると、「カネ払ってるんでだから、何でもやってくれて当たり前」とばかりに横暴なモンスター家族が押し寄せるというリアルも存在します。

転ぶリスクのある人は全員車椅子を義務付け、むせるリスクのある人は全員流動食にすればいいのでしょうか?それが終の住処での幸せなのでしょうか?

介護現場で働く人たちは、本当はもっとおじいちゃん、おばあちゃんたちとお話をしたり、時間がかかっても本人に任せた方が、高齢者も元気でいられると考えいます。介護より介助だと。でも、それができない。そんなジレンマとも戦っています。

そもそも日本の介護施設では、「食事の補助」「排泄介助」などの身体的ケアに加え、「レクリエーション」で高齢者の精神的ケアを行なう施設がほとんどです。さらには入所している部屋を巡回し、シーツ交換や掃除、歯磨きコップの衛生状態をチェックしたり、消毒するなどの雑務をこなすなど、常に「やらなくてはいけないことだらけ」です。

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