日本人女性も死亡。テロを防げなかった、スリランカ政治の混乱

 

ただ、諸々の状況から見ると、はっきりと言えることは、今回のテロ事件は「プロの仕業」だということでしょう。もし、世間が言うようにISをはじめとするイスラム過激派に責任を押し付けたいなら、恐らくIS絡みで、【シリア帰りの元IS】による仕業というストーリーになるでしょう。

実際にスリランカ当局に身柄を確保された一人は、シリア帰りの元IS戦士とのことでしたが、彼の関与については謎が多くあるようです。現在の国際的な論調(注:欧米とその同盟国の論調)から考えると、混乱に幕引きをするには、イスラム過激派にその責任を負わせておくのが手っ取り早いというような感じが見えます。

その他には、報道で取り上げられた別のイスラム教徒、【地元の60代の大富豪】によるOrchestrated actionだとする内容です。これについては、謎だらけです。それは、仮に彼とその取り巻きが何らかの形で関与していると仮定しても、彼らにキリスト教徒と外国人観光客を襲う理由がないからです。

2009年に1975年から続いた長い内戦が終わったのは先述の通りですが、原因の1つは、人口の7割を占める仏教徒からヒンドゥー教徒への迫害と差別でした。タミールの虎との抗争が2009年に終わってからは、仏教徒の迫害や暴力の対象は、人口の1割ほどを占めるイスラム教徒に変わりました。

この衝突をキリスト教徒は静観しており、仏教徒とイスラム教徒の間にあるいがみ合いと衝突にも関わっていなかったため、イスラム教徒のグループが、キリスト教徒をターゲットにして大規模な攻撃を仕掛けるというシナリオも非常に考えづらいでしょう。 数日遅れて出されたISの犯行声明では、「先日、ニュージーランドで起こったイスラム教徒への銃乱射事件に対する報復」が理由の1つに挙げられていましたが、スリランカは比較的にイスラム教徒とキリスト教徒の折り合いがいい国で、それぞれマイノリティであるという共通点から争いはなく、その上、「ではなぜ、ニュージーランドではなく、スリランカでこのような“報復”を行ったのか」というロジックが立ちません。

シリア及びイラクでのIS掃討作戦が進み、軍事的なグループとしてのISは影を落としていると言えますが、その分、IS戦士たちの出身国において、ISという“思想”に則ったテロ活動が実施されるケースが増えてきています。

スリランカ、インド、パキスタン、バングラデッシュ…南アジアの国々でもそのような危険性はあるのですが、今回のような非常に機能的でレベルの高い攻撃を仕掛け、そして成功させるだけのキャパシティーがあるようには思えません。

では他の可能性はどうでしょうか?

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