そもそも日本は世界一、医療による被曝が多いらしい。2004年、世界有数の医学雑誌「ランセット」に掲載されたオックスフォード大学研究グループの論文によると、75歳以上の日本人の年間がん発症者の3.2%にあたる7,587人はX線撮影の被曝が原因だというのである。
諸外国に比べX線CT装置の台数が多いこともあるだろうが、それに加えて、日本がいまだにバリウム検査を重視していることを見逃すわけにはいかない。
国立がんセンターの「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」を読めば明白だ。2014年に改訂されているのだが、胃X線検査については従来通り「住民健診型」「人間ドック型」のいずれについても「推奨する」とされている。
胃カメラ検査に関しては、2005年版で「住民健診」を「推奨しない」とされていたが、14年版でようやく「推奨する」に引き上げられた。
一方、ピロリ菌の有無などを調べる胃がんリスク検診は「推奨」されていない。「死亡率減少効果を判断する証拠が不十分」というのがその理由だ。
血液検査でピロリ菌の有無と胃粘膜の萎縮度を調べ、胃がんリスクの程度によってグループ分けし、最もリスクの低いグループは定期胃がん検診を不要とするのが胃がんリスク検診である。
胃がん患者の99%がピロリ菌感染者だということは医学的に証明されている。ピロリ菌に感染していないと判定されたグループは、無駄な検査を回避し、その他のグループだけが、胃カメラ、つまり内視鏡検査を受ける。そのほうがはるかに合理的ではないか。この検査を排除しょうとするのは不可解である。
WHOの専門家会議は、胃がん診療で最も大切なのはピロリ菌対策だと結論づけているのに、なぜかバリウム集団検診がいまだに偏重されているのが日本の現実だ。
厚労省によると胃がん検診のうち77%がバリウムによるX線検査で、内視鏡検査は22%にすぎない。その理由について厚労省の佐原康之審議官は次のように述べた。
「有識者による議論をいただきながら国の指針を定めて科学的根拠に基づくがん検診を推進している。内視鏡に切り替えにくい理由としては、被験者の負担感が高く、巡回のバスによる職場での検診ができないので利便性が低下することがある」
しかし、ほんとうにそのような理由なのだろうか。