隣家に手紙を投げ込めるか…安田純平が拘束時に綴った緊迫の真実

 

【2015年7月2日(木曜日)】=拘束10日目

刻々と期限が迫っている。10日までに出られなければ確実に日本政府に伝わり、「テロリスト集団」の捜索にかかる。その後オレを解放してもそれは止まらない。オレが「紳士的な組織だった。よい家、食事を用意してくれていた」などと話しても、誰もが「ストックホルムシンドロームだ」というだけだ。それは革命の支持者ですら同じだ

いくらオレの生活環境を変えても、オレの家族は泣き続けている。ただの気休めでしかない。「アサドへの攻撃どころか、革命というがただのテロリストギャングだ」と言われるだけだ。オレを取引に使って何を得るのか知らないが、完全にただの「テロリスト」、ギャングになる道を選ぶのか。

※ この時点でも、相手に詰め寄る文言を考えている。日本政府が捜索するということはほとんどないし、シリアの中でそれができるはずもないので、彼らも気にはしない。こうした「こけおどし」はしないほうがよい。

洗濯物を窓の外の柵に吊るしたら、なぜか窓が開かなくなった。でこれはゴミ捨てられないし、うがいの水も吐けないのでしょっちゅう連中を呼ばないといけない。何より隣の家に手紙を投げ込むことができない。

10日までに解放されると願っているが、これを過ぎると日本政府にバレてる。そんなことならリスクを負ってても救出を頼みたい

窓を釘で閉められていたことがわかった。やはりやれるときにやるべきだったし、命綱であるこの窓に注意をひきつけるようなことはすべきではなかった。本当に馬鹿すぎる。これで望みが絶たれた。ごめんおく、オレはもう帰れないかも

今日は気持ちが沈んで何もする気がおきない。一度は全て諦めたのに、昨日の企画書で上手く行く気になってかえって辛くなった。希望を持てば持つほど辛くなる。

10日を過ぎたらもう次はトルコビザの期限だが、こいつらはもうそんなことは気にしないだろう。取引相手は必ず背後の国に連絡するから、結局日本政府が出てくることになる。それくらいの規模でないと解決しないのではないか

何とかして釘をこっそり抜いて手紙を投げるしかない。といってもビクともしないが、少しずつでも動かして緩めていくしかない。見つかったらアウトなので真剣にやらないといけない。木肌が出たところはボールペンで塗って周りと似せる。薄暗いのでわからないだろうが、じっくり見られたらアウト。気長にやるしかないが、やることができたのが少し嬉しい。

しかしこの組織は本当に世界を相手にする気なのか。ヌスラやISははじめから世界を敵に回しているが、今から名乗りを上げる気なのか。10日までに帰してくれればすべて笑い話で済むのに。とにかく10日までは訴え続けるしかない。

今回はまだ、一緒に写真撮ろうと訴える。利点と、やらないと失うものを列記して訴える。10日までに帰してくれるという希望のみがオレを生かしている、という情に訴えるのは次回か。悪夢の話とストックホルムシンドロームの話をする。

夕飯はチキンの乗った炊き込みご飯にヨーグルト。

正直言って10日が来るのが怖い。それでも解放されなかったら何を希望に生きていけばいいのか

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