隣家に手紙を投げ込めるか…安田純平が拘束時に綴った緊迫の真実

 

本を投げることも考えたが、失敗すると一目で見つかるのでリスクが大きい。思いついたのは、ボールペンの中に手紙を入れて投げることだが、かなり簡単に飛ぶので行けそうだ。

見つけてくれるか、変な通報されないかリスクはあるが、このままでいても何カ月かかるかわからない。

本当にアハラルが動いているか分からないし、他の組織に買われたら終わりだ。見つかったらまた地下に入れられ、全ての荷物没収の地獄になるし、殺されるかもしれない。

やるべきかどうか悩むが、チャンスであるのは確か。場所が分かればアハラルでも動いてくれるかもしれない。

「来る」というアラビア語「イージー」の書き方が分からないが、「ここへ」と書けば分かるはず。「殺す」は絵でも伝わる。「中を見て」と書く必要があるから、「見る」を書ける必要があるが。

※ インタビューをする際には英語のできる通訳をつければよいが、前線に近くなると、わざわざ危険な場所には行こうとしない通訳も多いので、通訳なしで状況を把握しなければならないこともある。よほど報酬が良くない限り、前線にまで行くメリットは現地人にはない。

 

2012年のシリア取材では、政府軍の戦車が眼の前まで来ていた前線では英語のできる戦闘員は見つからず、英語のできない戦闘員から状況の説明を聞かなければならなかった。

 

「ここ」は「ヘナ」、「殺す」は「カタル」、「戦う」だと「キタール」、戦車(ダッバーバ)、迫撃砲(ハウエン)、ミサイル(サールーフ)、兵士(アスカリ)、弾(ラサース)、怪我(ムサーブ)、死亡(モウト、殉教にあたる戦死だとシャヒード)、ヘリ(タイヤーラ)、空爆(カセフ)、家(ベイトゥ)、来る(イージー)、行く(シリアではイローハで通じた)、なぜ(リマーザとかレイシ)、どのように(ケイフ)、もしも(イザ)といった、前線の状況把握に必要な単語を使いつつ、図面を書きながら説明してもらえばかなりの部分を把握できる。

 

アラビア語のできる人からは異論が出るだろうが、イラクやシリアで聞いて覚えた単語なのでこれでほぼこれで通じるはず。

 

だが、取材というのは母国語であっても簡単なものではないので、現地語も可能な限り話せるべきであり、大いに反省している。

 

アラブ地域を専門にする気でないとアラビア語はかなりハードルが高く、いろいろな現場やテーマをやろうと思っているとなかなか手が出ないという状態だが、かなりベテランの先輩記者でも勉強して話せるようになっている人もいる。やはり腰を据えてやるべきなのだ。

今のところ扱いは悪くないので、いつかは帰れる気がしているが、どれだけかかるのかが問題。しかし早く帰りたいということで死のリスクを冒すかどうか。しばらくは様子を見るべきか。

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