ZOZOの栄光と失敗。カリスマ・前澤友作氏は何を見誤ったのか?

 

夢のまた夢の話でしかなかった前澤氏の「アパレル革命」

MB氏がZOZOTOWNの功績として評価するのは、世界的には衰退してしまった中価格帯のアパレルが日本ではしっかりと残っていることだと指摘する。つまり、欧米をはじめ世界のアパレル業界は近年の傾向として、高額なハイファッションか、低価格のユニクロのようなファストファッションかに、二極化されてしまっている。ところが、日本では中価格帯のアパレルをZOZOTOWNがしっかりとフォローしたため、例外的に淘汰されずに残った。その結果、日本は消費者が洋服を選ぶ選択肢が広い特異な市場となっている。こうした強みは、日本のアパレルが世界で戦っていく際に強みになるはずだ。

ZOZOTOWNと出店するアパレル企業は、ウィンウィンの蜜月にあった。しかし、ZOZOTOWNは中価格帯をほぼ網羅し尽してしまった。成長の限界を突破するべく次に向かったのは、ファッションに関心が高い人が購入する高価格帯ではなくて、ファッションに興味のない人が多い低価格帯であった。楽天市場で安売りするブランドの積極的開拓として、具体的に表れた。例えて言えば、百貨店の売場でスーパーの商品、もっと言うとディスカウントストアの商品を売るようなもので、昔からのZOZOTOWNファンには違和感しかなかったし古くから出店する側としてもいたたまれない気分だっただろう。

前澤氏としては、Twitterでアパレルの原価を暴露するなど、中価格帯はもっと安く売るべきだという思いがあったのかもしれない。若者が服を買わないのはおしゃれに興味がないのではなく値段が高いからだと、考えていたフシがある。しかし、低価格ブランドを売るのであれば、従来のブランドとは区別して、ひたすら安いこと、別の通販より1円でも安いことを訴求する別の姉妹モールを立ち上げるべきではなかったか。ZOZOTOWN自体が価格勝負で世界観が曖昧なブランドが主流の安売りモール化してしまった。ここに大きな失敗の素があったのではないか。

「前澤さんは、たぶんサイズが合わないから服を買わない人が多いと考えたのでしょう。しかし、そもそもファッションに興味のない人が、ZOZOSUITを使って何回も向きを変えて撮影してサイズを測るような、面倒臭いことを積極的にやるとは思えないですね」。

MB氏はファッションに興味がない人に、サイズを計測させるという発想が、顧客と乖離していると手厳しい。それなら、ユニクロの店に行って試着して買った方が手っ取り早いのである。

ZOZOSUITには初代と2代目があるが、初代のニュージーランド・ストレッチセンス社製のものは黒くてシャープなシルエットで、スーツ自体にセンサーを埋め込んであった。着用するだけで、Bluetoothによって計測データがスマートホンの専用アプリに転送されて、サイズ情報が記録されるという、本当にうまく行けば画期的なシステムであった。

旧型ゾゾスーツ

旧型ゾゾスーツ

しかし、うまく大量生産ができずに、大幅な納期遅れを引き起こしてしまった。そこで、自社開発した新型ZOZOSUITは、全身白い水玉のようなマーカーを散りばめられ、スマートホンでマーカーを撮影して3Dデータを作成する仕様に変更された。しかし、時計の針のように向きを変えて12回も撮影しなければならず、撮影の途中でしばしばアプリが落ちる不具合が発生するなど、大量生産はできても実際に使いにくい代物でしかなかった。

新型ゾゾスーツ

新型ゾゾスーツ

ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、日経新聞の記者にZOZOSUITに関して、17年12月と18年7月に聞かれて、「おもちゃですよ。あんなのを買っていちいち図るのは面倒くさい。店舗で店員に測ってもらった方が早い」、「顧客のデータを取るのはいいが、実際に作った商品が身体に合うかどうかは人によって違う」と答えたという(18年8月6日付け、日経電子版)。

これに対して前澤氏のシンパたちは、世界的なアパレル企業を構築した柳井氏をたたえつつも、「ZOZOの革命的な発明に耳を貸さない守旧派になり下がった」、「新しい才能に嫉妬して革新の芽を摘もうとしている」などといった論調で、TwitterなどSNSで柳井氏を攻撃した。しかし、ITやらAIやらを活用した目新しいものが、常に業界の伝統を乗り越えていくとは限らない。保守的な化石のほうが正しいことだってあるのだ。

サイズが重要なスーツから商品づくりを行ったのも間違いでした。届いた商品のサイズが合わなかったり、両腕の長さが違ったりで、散々でしたから」(MB氏)。

オーダーメイドのアパレルを、ITを使って低価格で提供するといったPBの発想は良かったが、そもそもファッションに興味がない人が買うものでなく、顧客を読み間違えたうえに技術力も伴わず空振りに終わった。注文して2週間で届くはずのスーツが、3ヶ月かかったといった納期の遅れも常習化した。前澤氏がぶち上げた、PBでアパレル革命を起こして10年以内に世界のアパレルで時価総額トップ10に入る、5兆円を目指す構想など、夢のまた夢の話でしかなかった。

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