僧侶の「怪談説法」に客が殺到。人々はなぜ「恐怖」を求めるのか

 

人は怪談の中に「リセットボタン」を求めている

――三木和尚の怪談説法の盛況ぶりを見ていると、怪談は夏の風物詩という印象は過去のものだと感じます。なぜ人は、恐怖を求めるのでしょう。

三木「私は、聴きに来られる方は、リセットボタンを探しているんだと思うんです」

――リセットボタン、ですか?

三木「人間って、『永久に生き続けていたい』とは実は思っていなくて、どこかに死というリセットボタンがあるから心が休まる部分があるのではないでしょうか。今、世の中が漠然とした不安感がたかまっており、とても生きづらい。反面、死を身近に感じることができない。もちろん物騒な事件や自然災害があり、つねに人は死と隣り合わせにいるのですが、それを現実として感じられない。怪談というかたちで死と対峙することで、不安をリセットしたい。心を休めたい。そんな気持ちがあるのではないでしょうか」

――三木和尚の怪談説法は恐怖だけではなくどこか癒されるのは、自分なりのリセットボタンに触れているからなのでしょうね。今後もお続けになりますか。

三木「私は怪談とは“光と影を描くこと”だと思っています。影をしっかり語らないと、光の話はできないと感じているんです。これからも怪談を通じて、生きるとはなにか、感謝とは何かを伝えてゆきたいですね」

三木大雲さんが不良少年たちを振り向かせるために語り始めた怪談。いつしかそれは法話と溶けあい、「怪談説法」という新たな諭しの道を拓きました。

恐怖、怪奇、戦慄。人々との暮らしには、さまざまなおそれや不安が横たわります。それらから目をそむけ、前向きに、ポジティブにのみ生きることをよしとする現代。しかし、光のみを追って影を見ずに過ごすうちに、誰しも次第に心のバランスが崩れてきているのではないでしょうか。

人々が怪談を求める背景には、暗闇にいる自分を見つめなおすことで心の安定を取り戻したいという心理が働いているのでは。そう感じてなりません。(文・取材:吉村智樹)


続・怪談和尚の京都怪奇譚(文藝春秋/文春文庫)三木大雲 著 定価:本体650円+税

 

三木大雲
怪談をベースに法華経を絡めた説法を行っている。1972年、京都市で教法院住職などをつとめた三木随法の次男として生まれる。2005年、蓮久寺の第38代住職となる。関西テレビ『怪談グランプリ2010』『怪談グランプリ2013』にて準優勝、『怪談グランプリ2014』では優勝を果たした。2018年、“最恐”怪談師決定戦「怪談王」優勝。同年、恐い話No.1決定戦「OKOWA」チャンピオンシップ優勝。

吉村智樹(放送作家・ライター )

京都在住の放送作家兼フリーライター。街歩きと路上観察をライフワークとし、街で撮ったヘンな看板などを集めた関西版VOW三部作(宝島社)を上梓。新刊は『恐怖電視台』(竹書房)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)。テレビは『LIFE夢のカタチ』(朝日放送)『京都浪漫』(KB京都/BS11)『おとなの秘密基地』(テレビ愛知)に参加。まぐまぐにて「まぬけもの中毒」というメールマガジンをほぼ日刊で発行している(購読無料)。

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