官邸の圧力か。報道ステーション大量追放を招いた「ある出来事」

 

2月13日の抗議集会に参加した元TBS記者で立憲民主党の杉尾秀哉・参院議員はこう言う。

「テレビ報道で働くすべての人にとって旧ニュースステーション、報道ステーションは特別な番組です。記者は材料を集めてくる人。その材料を腕のいい料理人がコンテクストとしてつなげてゆく。長年そういう経験をしてきた手練れのディレクターが今回切られようとしている10人の方々です」

メディア対策に異常な関心を抱く安倍政権のもと、報ステをとりまく政治的圧力がいかに強くなったかはよく知られている通りだ。

記憶に新しいところでは、2015年1月23日、報ステのオンエア中、官邸からかかった抗議電話がもとで、コメンテーターの元経産官僚、古賀茂明氏が番組を降ろされた一件がある。いわゆる古賀氏の「I am not Abe」発言に対する官邸からの攻撃に、早河洋会長ら経営陣はもちろん、報道幹部は早々に屈し、統括チーフプロデューサーも配置換えの憂き目にあったのだ。

ところで、テレビ朝日の放送番組審議会委員長は誰かご存じだろうか。幻冬舎社長、見城徹氏である。意外、と思う方も多いだろう。

見城氏といえば、ベストセラーの仕掛け人であるが、本人を目の前にして照れもせず、安倍首相をヨイショしまくる“お座敷芸”にも長けている。

「信義に厚く、ウソが言えない。外交も歴代の総理でこれだけのことをやった人はいないですよ」「(安倍独裁と)悪く言われるのは、あまりにも実行力がありすぎるから」(2017年10月8日、AbemaTV)

見城氏率いる幻冬舎は山口敬之氏の『総理』や小川榮太郎氏の『約束の日 安倍晋三試論』など、安倍首相を持ち上げる本の発行でも知られている。

なぜその見城氏がテレ朝の放送番組審議会委員長なのか、いきさつはよく知らないが、早河会長との仲はすこぶる良いようで、テレ朝が出資し早河氏が会長を務める「AbemaTV」に「徹の部屋」なる番組を昨年6月まで持っていた。そこに出演者として安倍首相を招いたさいに繰り出したのが前掲の「絶賛コメント」の数々なのである。

早河会長は安倍首相やその取り巻きと会食を重ねているうちに、他の多くのマスコミ経営者と同じく、堕落の道をたどっていったと筆者は勝手ながら推測する。

1985年に久米宏氏の「ニュースステーション」を初代プロデューサーとして手がけ、その後、田原総一朗氏の「朝まで生テレビ!」を担当したジャーナリスト魂はどこかに消えてしまったようだ。

官邸とのつながりが深まり、番組のお目付け役である見城氏への忖度が強まるほど、早河会長らテレ朝上層部と、「報道ステーション」現場スタッフとの意識のギャップは広がっていったに違いない。

首相と頻繁に会食し、権力の甘い蜜のお裾分けにあずかったマスコミ経営者は、官邸の手の内に取り込まれてゆく。保身の虜になりがちな編集、制作部門の幹部は経営者の意向を嗅ぎ分ける能力を日々磨いている。そして、ついには政権への批判精神を脈々と受け継いできた番組の中核メンバーが、派遣切りで追放される。

黒を白と嘘をつき通しても総理大臣の地位にとどまることができる歪んだ政治状況を許しているのは、誰のせいなのか。今や定番となった結論「野党のふがいなさ」を使うのもいいが、マスコミの堕落はそれ以上に深刻なのではないか。

image by: Osugi / Shutterstock.com

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