追い詰められた首都。東京は本当にロックダウンすべきなのか?

 

さて、東京の場合ですが、判断は非常に難しいところに差し掛かっているように思われます。

判断を行うためには、実際の感染者数を推定しなくてはなりません。ところで、日本の、特に東京の場合はPCR検査の数が限られているという指摘があります。これは事実ですが、その背景には次の3つの事情があると思われます。

1.日本の場合は、徹底したクラスター対策に集中して成果を上げてきた。つまりクラスターが発見された場合に、陽性患者を隔離すると同時に、周囲の濃厚接触者も含めて何度も何度もPCR検査を行って、感染を封じ込める作戦が取られている。そこで、限られた検査能力の中では「初めて検査を受ける人」に割けるリソースが少ない。

2.検査陽性イコール感染症指定医療機関に入院、という厳格な(国際的にみれば贅沢な)運用を取っている。止める話は何度も出ているが、現場などの反対があるのと、軽症者は一般病院や自宅での療養となった場合のケア体制が構築できていない。そこで逆算して軽症とみなされる患者は検査を先送るしかない。

3.クルマ社会でないので、ドライブスルー検査が不可能。従って、検査場所での感染拡大の危険性があるために検査数を一気には増やせない(今回、残念ながら大きなクラスターを発生させた台東区の永寿総合病院がいい例)。

ということで、依然として日本(特に東京の場合の検査件数)は少ないままです。ちなみに、本稿の時点(アメリカ時間3月30日)における検査数、陽性患者、死亡数は、

  • 東京都の場合:検査累計2,986、陽性者累計443、死亡累計9 (3月30日20時現在)

となっています。一方で

  • ニューヨーク市の場合:検査累計不明、陽性者累計36,221、死亡累計790

ということで検査数は正確な数字が出なくなっていますが、東京の場合とは2桁違う数字になっているわけです。では、仮に思い切り検査数を拡大したら、東京の場合はどのぐらい出てくるのかということになると、一つの目安は「勢い」です。

現在のNYは一時期の「3日で感染者が倍になる」状況から、最新の時点では「倍になるのに6日」までペースが緩やかになってきており、ピークが近づいているとされています。

一方の東京ですが、把握できているクラスター(例えば繁華街の店だとか、台東区の病院)を除外して、経路不明の感染ということで考えると、ジワジワと増えているわけです。仮にこれが数日で倍になるというような勢いを見せているとなると、その背景にある「見えないクラスター」も同じ速度で拡大していることが考えられます。

そうすると、ある時点で急にR0が1から2、更にそれ以上ということになって、「重症者が殺到する」という最悪のシナリオに数日で転換してしまう、そんな可能性があるわけです。

その場合ですが、良くも悪くも「ドタンバになると、個人の裁量でアドリブ対応を含めて頑張る」カルチャーというよりも、「厳格にマニュアルを守る」カルチャーの日本の場合は、非常にあっけなく医療崩壊が起きてしまう可能性があるわけです。

例えば、日本医師会は「一刻も早い緊急事態宣言を」という主張をしていますが、それは人権をすっ飛ばしたいとか、自分たちが保守派だとかいうようなことでは全く無く、日本の厳格なマニュアルを守りながら一気に重症者が殺到してきた場合の医療体制の脆さを知っているがゆえの悲痛な訴えであると理解できます。

勿論、私はアメリカという遠くから見ているので、誤りやズレはあるかもしれません。ですが、専門家の方々の論考を必死で勉強しながら、アメリカでロックダウンの真っ只中で耐えている経験を重ねたところから、以下のような見通しを述べさせていただこうと思います。

1.仮にあと数日(4月2日・木)ぐらいまでで、東京の「経路不明の感染者における増加傾向が明らか」となった場合には、準ロックダウンを真剣に検討する必要がある。

2.その場合に、企業、官公庁、学校は今週中に、通勤通学を止める準備を完了する必要がある。具体的には、新年度体制に伴う業務権限の移譲、学校における教科書配布など。

3.中国、韓国、欧州、アメリカの実例からは、例えば飲食店の営業停止(テイクアウトとデリバリーのみ許可)というのが常道だが、日本の場合は強制命令を出す法律が感染病法しかないし、それでも短期間しか出せない。また強制にすると補償が必要で、確かに人情としては出したいが、東日本大震災、豪雨・台風被災の事例との比較では難しい。そこで「消費者の自粛を強く求める」という手段となった。28・29日の週末はその実証実験だった可能性。

4.個人への罰則規定については、日本の場合は法律上の根拠が難しい。その一方で、感染のスケールを考えると、そこまで強く「減少目標値」を下げる必要はなく、むしろ社会的な混乱によって「減少目標」が下がらなくなる危険もある。従って、マイルドな対応となるのではないか。

ということで、非常に切羽詰まってきたように思えます。ですが、東京都も、そして各医療現場も、また都民の皆さんも、冷静な判断と対応が、まだまだ可能であると思います。

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