バイト先はクラスター病院。コロナ疑いでPCR検査前に書いた遺書

 

私なりの覚悟

検査の翌日、私は陽性の可能性が高いにもかかわらず、実家を短時間訪れた。そんな状態で高齢の両親の住む実家へ入ることは、非常識極まりないことは重々承知している。それでも行った。

コロナは空気感染しない。マスク着用の上、距離をとって短時間ならば、移すはずがないと確信していたものの、行動としては常識外れだ。父親からは、「なんでお前みたいな立場の人間が入って来るんだ!」と叱られた。当然である。だが、私には私なりの覚悟があった。

正直言って、両親の顔を見られる、もしくは私の顔を見せられるのは、「今日が最後だ」という気持ちからだったのだ。私は喫煙者。酒も飲む。基礎疾患もある。コレは、陽性だった場合に、重症化する要件にピッタリ当てはまる。

入院すれば完全隔離で会えない上、死んでも「感染防止」の観点から、一度も顔を見せることなく直に火葬場行きだ。志村けんさんのケースと同じになる。陽性と出れば、確実に死ぬとあらば、最後に両親の顔が見たかった。自分の顔も見せておきたかった。

実家から自宅へ戻る原付バイクを運転中、涙で信号の色が分からず参った。これでお別れだと思った。

実のところ、検査後には遺書を書いた。「これまで、ロクな親孝行も出来ず、親より先に逝く親不孝をお許しください」と綴った。うまく書けずに、何度も書き直した。物書きの端くれとはいえ、いざ遺書となると、まったくダメ。手も震える。

さらに、私が死んだ後の遺品整理で、見られたら恥ずかしい物(アダルトDVDや日記など)をすべて処分した。迷惑を掛けぬよう、部屋中、ピカピカに掃除した。「コレで死ぬ準備は整った」というのが、その時の気持ちであった。

そして、翌日の午前中。保健所から検査結果を知らせる電話が来た。

「陰性です。よかったですね」……脱力で体が動かない経験は初めてだ。

保健所の方は、「あれほどの院内感染・クラスター状態の病院で勤務されていて陰性ということは、うがい・手洗い等、やるべきことをしっかりされたんですね。自分の身は自分で守れる証明・好例として発表したいと思います」と言ってくれた。

体に力が入る状態に戻ると同時に、遺書を破り捨てた。実家への電話では、「『今』、保健所から結果連絡が来た」とウソをついた。本当は、電話するまで1時間以上かかったのだ。つまらない表現だが、「気持ちの整理」に時間がかかった。母親は泣き、父親からは「よかったな」とメールが来た。短い言葉の中に、いかに心配してくれていたかが滲み出ていた。

私は生きることを許された。あれだけのヤバい環境から逃げ切ったからには、今後、そのへんのコンビニやスーパーで感染しましたでは、笑い話にもならない。徹底的な自己管理をして、絶対にコロナ感染しないのが、生かされた私の責任・義務というものだ。

そういえば、保健所の方に「自己防衛行動(うがい・手洗い)以外に、ご自身の免疫力が高いと評価します。参考までに、普段の食生活をお聞かせください」と尋ねられた。

コレには自信がある。私の趣味は料理。外食はともかく、中食は一切しない。ほぼ毎日、自分で料理を作っている。このことが免疫力を高めているそうだ。好きでやっていることだが、コロナを跳ね返す一助になっていたとすれば、自分の趣味に感謝である。

専門家の解説によれば、新型コロナウイルス完全終息には、まだまだ長い年月が掛かるという見通しだ。こんな時期に飲み会をやって、集団感染するバカな研修医たち、海に大勢集まってサーフィンする連中、感染者の少ない地域に大挙して押し寄せ、地元住民を不安と恐怖に巻き込む「コロナ疎開族」、飛沫を撒き散らしながら走って健康気分のオメデタイ、ランナーども……。

今一度、この未知なる恐怖の敵の力を、認識していただきたい。こうした連中が各地に存在する以上、GW明けの「緊急事態宣言解除」はありえないだろう。いや、解除などすれば「第2波」に繋がる。当面、解除すべきではない。

平時においては、やたら横文字使ってエリート意識丸出し、常に上から目線、記者への態度最悪、とにかく「いけ好かないババア」だと思っていた小池百合子・東京都知事だが、いざ緊急事態となれば、これほど頼りになるリーダーはいまい。やることが速い、決断が速い、方針がブレない。見直した!

安倍総理大臣が「検討中」「調整中」とモタつく間に、次々と物事が進んでゆくのは頼もしい以外に言いようがない。コロナ終息までの期間限定で、「臨時総理大臣」に就任されてはいかがか?

その間、安倍総理大臣には、自らの夫が発出した「緊急事態宣言・外出自粛要請」どこ吹く風とばかり、マスクなしで人混みに出掛けてしまう、異星人妻のロックダウンに注力していただきたい。「あの妻をロックダウンするのは、実際の都市封鎖より難しい」とは、自民党の某有力議員。

今回の貴重な体験で、数え切れぬほど多くを学んだ。語弊はあるが、「良い体験をした」とすら思いたい。唯一の心残りは、アダルトDVDを捨てなきゃよかったということだ。検査結果が出てからにすればよかったと後悔中(笑)。

さ、保健所の方からお褒めいただいた「免疫力」の維持・向上に向け、今夜もバランスのとれた料理を作ろう。間もなく、スーパーが空く時間だ。「時差買い物」に出る。

スーパーまでの間に○○○病院がある。院内感染が止まるよう、毎回祈りながら、その前を通過している。コロナが完全終息し、○○○病院がその本来の機能を取り戻した上で、再びリネンスタッフ募集が出たら……、あるいはまた、ここへ帰ってくるかも知れないと思いながら。

【富田和彦。1974年生まれ。立教大学社会学部社会学科卒業。フリーライター・漫画原作シナリオライター。夜の世界の裏側を描いた電子配信コミック「汚れた天使たち」が、異例のダウンロード数を記録更新中。今年9月より続編スタートに加え、病院心霊を扱う新作が間もなく始動】

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