なぜここまでライドシェアに力を入れるのか?
孫社長がこの分野に力を入れる理由、それはライドシェアにおいて、自動運転がもっとも普及しやすい領域だからです。
自動運転の技術はコストが高く、一般の人が自家用車で購入できる価格ではありません。一方、バスやタクシーなどの商用車ならば、その一人あたりのコストはかなり安くなります。仮に無人運転機能があるバスが普及した場合、ライドシェア企業は、ドライバーに払っている人件費が削減できるだけでなく、効率的な配車と移動が可能になることで、回転率が上がり、収益が高まることが予想されます。
つまり、ライドシェア企業にとって、自動運転の実用化はいかにバスやタクシーで使ってもらうかにかかっているのです。ライドシェアは単なるコスト削減だけがメリットではありません。利用者のデータを詳細に把握できるため、ロスのない効率的な移動環境を実現できるのです。
従来のマイカーを所有する社会では、クルマの稼働率は限定的です。クルマをシェアする社会が広がれば、駐車場にとまっているクルマが勝手に動き出し、人を乗せ、タクシーとして動いてくれます。自動車の稼働率が上げることで、人々の不便が解消されるのです。
移動分野の覇権を目指しているソフトバンク
ソフトバンクとトヨタの本当の目的は、そんな「不便の解消」のもっと先にあります。そもそも、MaaS(Mobility as a Service:サービスとしてのモビリティ)とは「ICT(情報通信技術)を活用して、マイカー以外の移動をシームレスにつなぐ」という概念です。
モビリティにおいて、現在は電車、バス、タクシーはそれぞれの交通サービスで経路検索や支払いを行っています。それをモビリティプラットフォーマーが登場することで、一つのアプリで経路検索から支払いを一元化できるのです。
では、この世界がなぜ必要なのでしょうか?
トヨタ自動車とソフトバンクグループの共同出資会社であるMONETは、地域社会が抱える大きく3つの課題を解決していくことを目指しています。課題は以下です。
1:公共交通機関が離れていて、住民の移動が困難な「交通空白地」
2:バス停が遠く不便、免許返納後の移動に困っている「高齢化地域」
3:公共交通機関からのアクセスが悪く、来訪者数が増えない「点在する観光地」「遠隔地店舗や病院」
当然、これらは日本だけでの問題ではなく、中国、その他の先進国でも起きている問題です。移動界の覇権を握ることができれば、移動の効率化は一気に進むことが期待できるといえるでしょう。
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ソフトバンクは将来成長するベンチャー企業に投資し、決済を押さえ、移動を含めたあらゆる領域のプラットフォーマーになりたいことがおわかりいただけたのではないでしょうか。
ソフトバンクという土台の上に私たちの生活は成り立っている…もしかしたら、それを実感する社会がまもなく訪れるかもしれません。
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