賭けに出た習近平。コロナ対応の失敗を“香港併合”で揉み消す中国の魂胆

 

その最たるものが、このメルマガでも取り上げた『香港国家安全法』の制定に向けた動きです。5月28日の全人代で法が可決され、その後、制定に向けて具体的な内容が全人代の委員会で詰められています。中国政府筋によると、彼らの立場からでも驚くほどのスピードで議論が進められ、恐らく来週には合意され、7月のできるだけ早い時期に制定される見込みとのこと。

ここで異例なのは、香港の立法会(議会)を経ない施行になりそうだということです。全人代の委員たちは口々に『これは一国二制度を確実にするもの』と説明していますが、実際には香港に約束されていた自治が喪失されることを意味すると考えます。

国家安全法の詳しい内容については、メディアで報じられている内容とあまり変わりませんのでここでは説明は割愛いたしますが、気になるのは、「(例外中の例外と言われるが)香港で拘束した容疑者を中国本土へ送検し中国法の下で裁判を行う」という裁判・司法管轄権を香港から奪うということと、法の施行に合わせ、香港に治安維持のための機関(国家安全維持委員会)を設置し、中国共産党が直接に監督・指導を行うという提案です。

G7諸国は揃って中国政府に同法制定を再考するように要請していますが、実際にはその強度については足並みが揃っておらず、厳格な制裁を課すべき(香港民主化人権法に則って)と主張するアメリカと、非難はしても制裁には加わらない日本とEU各国との間で溝が生まれています。EUについては、年1回の中EU首脳会談(6月22日)で懸念を伝えたものの、李克強首相から“中国市場におけるEUビジネスに対する環境整備を今年中に行う”旨発言があると、批判の声も鎮まってしまったようです。

中国としては、そのG7の溝をしっかりと突き、『これはピュアに内政問題だ』と主張しつつ、着々と同法制定と施行に向けて突っ走り、欧米社会に対しての対決姿勢を鮮明にしています。このままだと欧米を中心に外資が香港からの撤退を加速させる可能性が高まり、経済・金融のハブとしての香港の立ち位置が失われることになるでしょう。これは中国にとっても確実に痛手になるはずです。

しかし、習近平政権がどうしてそこまでの賭けに出たのか。その理由については、以前も書きましたが、「COVID-19の初期対応の拙さへの国内・党内から批判」と「香港における民主化運動への対策が甘かったとの批判」を払拭するため、指導部の権力基盤が強固であることを国内外に見せつけるという狙いがあったものと考えられます。そしてもちろん、One China,One Asiaを進めていくうえでクリティカルな位置を占める台湾への“最後通告”とも言えるでしょう。台湾海峡そして香港における緊張度が高まっています。

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