賭けに出た習近平。コロナ対応の失敗を“香港併合”で揉み消す中国の魂胆

 

香港問題に、ウイグル自治区への中国政府による人権侵害に対抗すべく、トランプ政権は6月17日にウイグル人権法にも署名し、中国を人権で攻撃するためのカードを1枚加えました。これにより、以前にも述べた「米国内における中国共産党の資産の凍結と、中国の政府系企業の資産凍結」という強力なカードを持つことになりました。貿易戦争、南シナ海でのにらみ合い、コロナウイルスの感染拡大の責任の押し付け合いという情報戦などに加え、米中対立に非常に強いカードが加わりました。

トランプ大統領にとっての狙いは、大統領選挙に向けた支持率回復には対中強硬姿勢を徹底するという手が有効との考えからの賭けですが(米国内での世論調査では、どのソースを見ても「アメリカは中国に対して強硬に出るべき」「コロナの責任を取らせろ」という意見が多数を占めています)、これは一部報道で出る『バイデン大統領』が登場したとしても、世論の後押しが急激に減少しない限りは、アメリカの対中強硬策は継続すると考えていますので、今後、米中対立が緩和される見込みはかなり低いと見ています。

ゆえに米中ともに、指導者たちは政治的な賭けに出て、対立構造を際立たせることで、自らの指導力の誇示に突き進むことになるでしょう。その煽りは、周辺国がもろに被ることになり、COVID-19によってズタズタにされた経済は、さらに傷つくことになるという悪循環に陥ります(場合によっては、デフォルトに陥る国が多発するかもしれません)。

中国はCOVID-19の混乱の中、長年国境問題で係争を続けるインドにも戦いを仕掛けました。中印は1200キロメートルにわたって国境線がありますが、ヒマラヤ山岳地帯のガルワン渓谷の領有権を巡って長年対立が続いています。先日、急に中国軍とインド軍が渓谷周辺で交戦状態に陥り、双方に死傷者が出る時代になり一気に緊張が高まりました。一時は核保有国同士の武力衝突は、アジアの終わりを意味するとまで緊張が高まりましたが、その後、外交的には双方抑制を促す動きが出て、表面的には小康状態となっています。

しかし、実際には両国とも渓谷に軍隊を配備・増派しテンションは高まるばかりで、アメリカ国防総省曰く『いつ交戦が拡大し、本格化してもおかしくない状況』になっています。中印ともに経済的に相互依存を強めている関係ですので、今、経済が落ち込む時期に交戦することは決して賢明とは言えませんが、中国にもインドにも、それゆえに引けない理由がありそうです。

それは「アジアの経済国としてのプライドのぶつかり合い」と、インド側が抱く「中国の一帯一路政策がインド経済圏を荒らしている」という不満と危機感が元々対立軸にあります。今回、COVID-19への初動と対策を両首脳とも誤ったと国内で批判が高まっていることで、それぞれに対して強硬姿勢を鮮明化させることで、批判の矛先を他に向けようとの政治的な狙いが透けて見えます。

ゆえに、決して油断はできませんし、偶発的な衝突による全面戦争の危険性は否定できませんが、私は中印の対立が近々戦争に発展するような事態にはならないと考えます。しかし、確実に中国はインドという隣国を敵に回すことを選ぶという大きな賭けを打ったと考えられますし、その影響がいつ爆発するかは時間の問題かもしれません。

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