狙いはエネルギー利権。旧ソ連の火薬庫爆発で世界が見る地獄絵図

 

アゼルバイジャンをフルサポートするトルコの思惑

そこにはトルコの影が見え隠れします。先述の通り、アゼルバイジャン人はトルコ系民族で、かつトルコと地理的に隣接していることもあり、1994年のアルメニア─アゼルバイジャン間の“和平合意”後、ちょうどトルコも国力をつけてきている時期と重なり、アルメニアによる不当な占拠に対抗する“同胞”アゼルバイジャンを助けるという名目の下、アゼルバイジャンに対して積極的な武器供与や協力を行っており、アゼルバイジャンからの信頼も勝ち取っているようです。

それゆえでしょうか。今回の紛争においても、アゼルバイジャン側につき、しっかりと紛争の当事者になっています。欧米諸国からの調停案や国連からの停戦の要請などをアゼルバイジャン側が退け、アリエフ大統領の宿願でもあるナゴルノカバエフ地域の奪還を旗印に“自らの手で解決してみせる!”と言わしめているのは、トルコからのフルサポートがあるからでしょう。

フランスがスクープ的に「トルコが雇った傭兵がアゼルバイジャン入りしている」とか、「シリアからアゼルバイジャンに向けて傭兵を派遣した」という指摘をした際には、トルコ・エルドアン大統領は「またフランスの陰謀だ!」と全面否定して対決していますが、この指摘はあながち嘘でもないでしょう。

今回のアルメニア─アゼルバイジャン間の紛争の命運を握るのは、トルコと両国と関係があるロシアです。

トルコについては、民族的・宗教的な近さがありますが、介入の大きな理由は100%地政学的な狙いと、現在、トルコが多面的に仕掛けているエネルギー安全保障のための対峙の一環といえます。

先ほども触れましたが、今回の紛争の中心地であるナゴルノカバエフ地域は天然資源が豊富で、現在は、そこから30キロメートルほど離れた位置を並行して走る2本のパイプランを通じて欧州各国に原油・天然ガスを輸出することでアゼルバイジャン経済にとっての貴重な収入源となっています。

トルコは、そのパイプライン権益を得ようと企んでいる模様です。そうすることで、現在、コロナ後の失政や、悪化の一途を辿るトルコ経済状況を受けて低迷するエルドアン政権への支持率回復の起爆剤に用いたいという思惑があるようです。

この企みがうまく行くか否かは、アルメニア─アゼルバイジャンの紛争次第ですが、そのカギを握るもう一つの“大国”がロシアです。

ロシアのプーチン大統領は、アメリカのトランプ大統領とフランスのマクロン大統領と共同で即時停戦を両国に訴えかけ、直接的な介入は避けています。国内の状況がもう少しましで、外交的にも圧力を受けていなければ、もしかしたら即座にアルメニア側について当事者化していたかもしれませんが、現時点まではまた沈黙を保ったままで、ロシア軍は1ミリも動いていません。

実はアルメニアとは1991年以来軍事同盟がありますが、同時にアゼルバイジャンには武器を売却するという関係にあり、両国との関係の維持を目的とするプーチン政権としては、今、どちらかに(特にアルメニアに)肩入れするのは得策ではないと考えているようです。

加えてウクライナ問題やベラルーシ問題を抱える身としては、今、アルメニア側について介入を深めて、国際社会でさらなる孤立に晒されることは極力避けたいとの思惑があります。

とはいえ、もちろん、今後の戦況次第、そしてトルコの野心レベル次第では、ロシアも直接介入に踏み込むかもしれません。

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