狙いはエネルギー利権。旧ソ連の火薬庫爆発で世界が見る地獄絵図

 

トルコが東地中海での天然ガス田問題で戦っている本当の相手

ちなみにナゴルノカバエフ地域は「民族紛争の火薬庫」という異名もあり、もし、これ以上戦況が悪化する場合は、チェチェン共和国やジョージアからの独立を模索する南オセチア問題に飛び火する可能性があるため、ロシアにとっての最悪の悪夢を避けるためにあえてこの紛争に加わるかもしれません。

それが分かっているのか、今、リビア問題やシリアなどで対立する形になっているロシアを牽制するためのカードとして、エルドアン大統領がアルメニアとアゼルバイジャンとの間の紛争を用いているのではないかとの“想像”をしてみたくなります。

ここでやはりトルコが大きなカギを握っていることが分かります。一見、直接的な関係がなさそうに見えますが、アルメニアとアゼルバイジャンとの間の紛争の影響は、現在、トルコがEUやエジプト、イスラエル、レバノンなどとの間で争っている東地中海の天然ガス田採掘権問題とも密接に絡んでいます。

東地中海での天然ガス田問題での相手は、直接的には境界線問題を抱えるイスラエルやキプロス、ギリシャですが、多面的に争っている“本当の”相手は、フランスです。

フランスはトタル社がレバノンとともに採掘に関わっており、今、2つあるうちの一つがイスラエルとの協議中となっていますが、そこに横やりを入れ、ギリシャとの緊張状態を作り、長年国家承認を巡って争っているキプロス問題や、欧州を分断に陥れ兼ねないシリア難民問題という何枚ものカードをチラつかせて交渉を行おうとしているのがトルコです。

今回のアルメニアとアゼルバイジャンとの間の紛争で、間接的にトルコに即時停戦を“命じた”のもフランスですので、東地中海での対立が、ここアルメニアとアゼルバイジャンとの間の紛争でも見られて、フランスとトルコがここでも戦っているという構図が出来ています。

東地中海での対峙は、ハンドリングを間違えると、トルコとギリシャ・フランス間の武力衝突に繋がり、それは天然ガス田採掘を著しく遅れさせるか、破壊するような危険性があります。

アルメニアとアゼルバイジャンとの間の紛争については、欧州に原油と天然ガスを送る2本のパイプラインをトルコが握ることになれば、対欧州で大きな切り札を得ることになり、欧州各国としてはそれは何としても避けたい事態でしょう。

トルコの視点から見ると、エネルギー大国としての地位を得て、地中海地域を支配したいのであれば東地中海での採掘は優先順位が高くなりますのでそちらに戦力を割くチョイスを取るでしょうが、もし安定的な供給源の確保というエネルギー安全保障上の意図と、ロシア・欧州各国の喉元にナイフを突きつけるというシナリオを優先するなら、ロシアが業を煮やしてアルメニアサイドとして武力介入してこない限りは、トルコはこの紛争を最大限に使って自らの勢力圏の拡大に勤しむことになるでしょう。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 狙いはエネルギー利権。旧ソ連の火薬庫爆発で世界が見る地獄絵図
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け