正社員に「業務委託契約」への切り替えを強要するブラック企業の悪質な手口

 

業務委託契約のデメリット

しかし、メリットがある一方でデメリットも存在する。懸念の声としてもっとも多く挙げられるのは「業務委託契約で働く人は、労働法に守ってもらえない」ことだ。すなわち、自由である反面、保護が弱くなり、すべてが「自己責任」になってしまう。これこそ、リストラ手法として懸念される理由でもある。具体的には、

  • 雇用契約(正社員)であれば労働基準法等で守られる、労働時間、賃金額(最低賃金額や割増賃金額)、賃金支払いの原則(全額払いや、毎月1回以上一定期日払い等)、休日休暇といった各種保護が存在しない
  • 厚生年金や雇用保険、福利厚生など、会社からの保障が一切なくなり、必要であれば自ら手続して支払いする必要がある。交通費や諸経費も自己負担となる
  • 取引先都合により、急に仕事が打ち切られたり、報酬金額を下げられたりするリスクが常に存在する

このように、「会社対従業員」といういわば主従関係から脱せられる代わりに、「会社対取引先」という関係性に変わることで、より個人の責任範囲が大きくなってしまうのだ。

働く側がメリット・デメリット双方を理解し、企業側が制度を適正に運用していれば、世の中全体としてもメリットの大きい業務委託形式。それでも、弁護士など専門家から懸念の声が挙がるのは「適正に運用しない企業」が存在するからに他ならない。

悪意ある企業は、「法律の規制と社会保障負担を免れる」という企業側だけにメリットのある部分だけをつまみ食いし、一方で正当な報酬を支払わず、いわば「自社の下請」として使い潰そうとする。場合によっては先述のように、「リストラの手口」として悪用されることもある。しかも残念なことに、働く側も法律を詳しく知らないため、悪意ある企業の言いなりになってしまうという不幸なケースも散見される。

仮に、会社側と働く側がお互いに契約内容に合意して業務委託契約を結んだとしても、その働き方や仕事の進め方が社員と変わらず、実態として「働く側が企業側に従属して使われている」と判断されれば、その契約は違法となり、会社側は処罰の対象となるのだ。では、どんな条件だとダメなのか。

  • 仕事自体の自由がない(仕事を断れない、競合企業からの仕事受託を禁止される等)
  • 働く時間や場所の自由がない(勤務時間や出社場所の指示・拘束がなされる等)
  • 仕事の進め方の自由がない(仕事の手順や進め方を管理される等)

このように、「業務委託契約でありながら、実質的に社員と変わらない勤務を要求される」状態はいわゆる「偽装請負」であり、違法だ。契約条件については事前に充分な確認と注意が必要なのである。

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